テキスト1975
100/147

花の名もいろいろあって‘―つの花でも植物学名、雅名、通俗名と区別があり、それぞれ一般に使われているので全く複雑である。たとえば古い日本種のバラを「長春」と呼ぶことがある。いわゆる漢語調の名前だが(チョウシュン)という発音が、古い日本画や南画に描かれたバラの絵を思い出させるから面白い。なたねのことを「菜花」という人がある。これも漢語調の読み方だけれど、(なのはな)になり(あぶらな)ということになって春の畑に黄色に咲く花を連想することになる。一月から二月へかけてのころ、のなたねは寒冷の季節であるから5センチ程度の短かい茎で、黄緑の葉が霜やけて枯れ葉と入り交じって風雅な形をみせている。花頭も押しつまって葉には雪や氷さえ見える。そんな姿は(なたね)というよりも(菜花)さいか、と呼ぶその人達の詩趣がしのばれて、格上げされたように感じるものである。「野薔薇」。のばらは五月に咲く白い花の野生のバラ。日本では白花だがヨーロッパでは紅花が普通でサイカ、(なたね)というとる。なたねも一段とあるらしい。「紅そむる野中のバラ」と歌にある様にまことに可憐な花だが、これを野菩薇(ヤショウビ)と呼ぶこともあって、こうなると床の問を感じさせるような荘重なひびきになる。りんどうは、笹りんどうで、また棒読みに「龍胆」リュータン、と呼ぷこともある。花の名は一般に美しい名、やさしい名が多いのだが、中には変った名、嫌らしい名の花も多い。またそれにはそれの理由があって選名されているのだから面白いものである。「おとぎりそう」は伝説の花である。花山天皇の御代に有名な限匠があった。鷹狩の山路で深似をうけ、路傍の草の葉を傷口につけたところ効果がたちまちあらわれ速かに全治したので、既匠はこの草を秘薬として秘密にしていたところ、これをきき知った弟が他人に教えたので、兄の鷹匠が激怒して弟を切り殺したという。この伝説にもとづいて、その後この草を「弟切草」おとぎりそう、と名附けた、ということであ「芦」あしは、万葉時代に始まった呼び名で、後世になってこれが(悪し)に通じるというので、「殴」よし、(良し)に改められたという。これも面白い話である。花に関する伝説偶話は随分多いが、多くの花の中には変った名、美しくない名、嫌な名前の植物も多い。暑い夏の縁台話のその話題に少々ならべてみる。(接骨木)ニワトコ、早春に芽をだすかんぼく。園芸のつぎ木によく使われるので州T卦どいう名が出たという説がある。(蛇草)ハプソウ。テンナンショウ科の山の草。陰湿の樹林の中に野生する草であって、夏より秋へかけてその柱頭に紫赤の実を生じ、その茎はまむしの肌を思わせる斑紋がある。(まむしぐさ)ともいわれる。気持ちの悪い草である。(虫とりなでしこ)、夏季に咲くやさしい草花、高さ50センチ程度で紫紅色の小花をつける。花序の下に粘液を出し、これで小さい虫をとり栄養にする習性の花。食虫蘭(ネ。ヘンセス)と同様、変った植物もあるものである。(虫とりなでしこは別名を小町草という。同じ花でも、随分イメージが追うものである。)(龍のひげ)リュウノヒゲ、三0センチ程度の蘭の形の硬い葉を出す。初夏に紫花をつけて花茎が出る。庭園などによく植えつけられる。硬いするどい葉の形が(龍のひげ)ということになっている。(くちなし)果実が熟しても口をひらかぬ、自ら破裂しないというので口なし、と名附けられたという。縁起でもない、といってこの花を嫌う人がある。夏季に白花を咲かせ庭園に植えこまれることが多い。大輪花と小輪花があり香りがよい。(げんのしょうこ)「現の証拠」である。薬草として一般に知られている。一名(医者いらず)(たちまち草)など万能薬ということになっている。生活に密若した名が面白い。とにかく計算高い植物である。(こうほね)河骨、六月頃から夏へかけて川や池に咲く黄花。太い根茎が水に洗われて、ちょうど白骨を思わせるのでこの名がある。花は黄色の小さくやさしい花。名に似合わない清楚な花である。(おじぎそう)眠りぐさともいう、また(恐妻草)ともいわれ、野原に野生する草で手を弱くふれても葉がたれ、強くふれると葉柄から垂れる。運動を起す野草として興味深いものである。あわれさやぶとが飛んでも(いぬたで)野原に自生する草、この草をかむと味がからいので、それを利用して料理の刺し身に添える。肉類の惑を防ぎ悪臭を消すために効果があるので使われる。酢)(へくそかずら)悪臭があるのでこの名がある。かわいそうな植物。(さるすべり)百日紅、七月ごろおじぎそう斗史(たでから九月まで紅色の花の咲く樹。百日も咲きつづけるので百日紅、また樹皮が滑らかで猿もすべり落ちるのでサルスベリ、これもューモアたっぷりの名である。①七月に入ると長野県から冷涼栽培のリンドウが送られてくる。太い茎に紫白の花が幾段にもついていて一本の長さ五0センチばかり、そのまま使うと実に格好が悪い、そこで頭を働かせて、二つ又は三つに切りわける。一本が二本、三本になる。こうして盛花などに挿すと丁度ころあいの長さだし軽やかに見える。材料る。②これと同意なのが。ハン。ハス。これから材料によく出廻ってくる洋種のすすきの穂である。これも1本では大きすぎるし格好が悪い。この場合も大きい穂を二段切り三段切りにして使うと、大変形もよく、1本で充分役を果すことになる。これも生活の知恵。③トルコキキョウは水揚のよい花である。開花はよく水揚げるし形もよいが、堅いつほみは頭を下げていて形が悪い。活けるとき堅いっぽみをすっかり切りとって活ける。上向きの大きいつほみはそのまま残しておく。すっきりして気持のよい花となる。も1本買えば充分、ということにな「一寸した工夫です」(専渓)花の名も畑12 •••.

元のページ  ../index.html#100

このブックを見る