テキスト1974
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c河原町の民芸屋で買ってきた(あけび)の蔓で縄んだ篭。がっしりとして安定感がある。さびた褐色の篭に調和するように、木の材料を使わず草花を二種選んで活けた。「とううちそう」はワレモコウの種類らしく、花の形も葉の形もよく似ている。さびた紅色の垂れた花序をもっており風雅な形がある。これにアジサイの白と淡紫の花を4本添え、かなり背高く活けた。どの花器でもそうだが、花を活けるとき花器の特徴をよく見せるように活けることが大切である。花形を作ることのみにとらわれて、花と葉によってほとんど花器をおおいかくすような活け方をする人がある。陶器でも篭でも図案や焼成の調子のよく見えるように、篭など内部のあみ目までよく見えるように活けたいものである。c 三00メーターほど場所に、アジサイがいちアジサイは箱根、伊豆地方に多く咲くといわれている。野生種も多いと思われるが、自然の環境がアジサイの栽培にも適しているのだろう。下田の城山公園のアジサイ、鎌倉の明月院と房総半島の麻綿原高原など有名だが、これらは野生の品種ではなく植栽されたものらしい。寺院とアジサイは縁の深いものらしいが、京都の寺でもアジサイを名物にして宣伝している寺院が多い。池辺、水辺に咲くアジサイは一のだが、渓谷の川に添うて咲くアジサイの花は一層、色彩的に美しい。水辺湿地に育ちゃすい性質の花かと思われる。余程以前のことだったが、伊豆、箱根地方に旅行したことがあった。八月だったが「白糸の泌」に立ち寄って、富士山の地下水が山麓の湧水となってこの渓谷に流れ落ちるのを見物した。そのとき滝の落下する巌鞣の左右めんに群落して咲いており、打ちおろす滝水にかすむ様に吉色の花がゆれ動いているのを見たことがあった。近づいてみると、これは「タマアジサイ」という品種で、花は小型の球状花だが色が冴えざえとして、場所の関係もあったのだろうが実に美しく、渓谷に咲く花の神秘さに深い感動をうけたのだった。一昨年の夏、ちょうど同じ季節に、もう一度あの美しいタマアジサイを見ようと白糸の滝を訪れてみたが、どうしたことかアジサイの花は一本もなく、渓流の岩の間にはハイキングの名残りなのか、辺りいちめんに捨てられた折詰の残物、あき缶あき瓶の塵芥に見る影もない。タマアジサイの夢も無残にうち砕かれたのだった。これは全く花の咲く環境とはいえないのである。(専)層美しいも5 とううちそうあじさい

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