テキスト1974
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五月十日、山の新緑も美しい季節となった。今日は高野山へ熊谷草(くまがいそう)の原生地を訪問しようという予定の日である。案内して下さる日下部静水氏は高野山に十数年も在住、附近の地理にもくわしく高野山の植物については、実地にくわしい方なので私達も安心してついて行けるという、まことに有難いハイキングだった。日下部氏、専渓、竹中慶敏氏、小田康子の同勢四名は午前七時過ぎに京都を出発、竹中氏運転の車に同乗して国道1号線を寝屋川まで行く。寝屋川より旧号線に入り羽曳野、富田林、河内長野を経て紀見峠を越える。紀の海が見えるというのでこの名のある紀見峠は低い丘だが、これを越えると和歌山県に入り、その昔、高野行者の列がつづいたであろう麓の在所のいくつかを過ぎ橋本市につく。川の鉄橋を渡る。いよいよ高野山に近い。これからは山路の登り道となって、山また山を廻るように登山道路を走る。有吉佐和子の「紀の川」の小説を思い起しながら高野山に近い農村の風景の中を段々と高度をあげて行く。私の十八オのころ大峯山行の行者11時ごろ高野口町から紀のにまじって、まっしろの法衣を若、白木綿のきゃはん草鞘(わらじ)ばきという扮装(いでたち)で、六尺の白木の杖をつき鈴を鳴らしながら,吉野の下市から上市へと歩いたのは古い想い出である。一日六里の行程で三日間を歩き通したのだが、それを思うと、高野まで約四時間で到若という、まことに便利な時代となったものである。こうやさんくまがいそう専渓高野の峯熊谷草金剛峰寺をとりまく八つの峯を蓮華の八弁に見たてて,八葉の峯ともいう雑木雑草の中にくまがい草が咲く10 高野山の熊谷草

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