テキスト1974
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2月号のテキストの写真をとったのは1月16日だった。しばらくはいけばな材料にも個性的な花の少ない季節である。花屋の店には温室の花が盟かに咲いているのだが、考えてみるといずれも四月、五月の花の温室栽培で、実際の一月の花というものはほとんどない。梅、つばき、すいせん、なたね、せんりょう、なんてんなどの実もの、その他は枯れ枯れとした枝ものが見られるだけであって、ま冬の花が少ないのは当然のことである。2月号テキストには何を活けようかと思いつつ、花屋に行ったのだったが、水仙の若々しい花をみつけて、おきまりの様だけれど水仙を材料にすることにきめた、という次第である。2月に入ると自然の木ものの若芽がふくらみ、野生の材料も早春らしい情紹がみえてくる。猫柳もふくらみ、春蘭の開花、暖かい陽ざしをうけて沈丁花の花も咲きはじめる。黄梅の咲きはじめるのもとの季節である。紅梅、白梅のふくらみ、にわとこの芽、谷桑の素朴な紅色の花など、いかにも早春らしい自然のうつり変わりを感じるようになるのも二月に入ってからである。春の花の序曲のはじまろうとする、その静けさが二月のシーズンといえる。したがって、一月から二月へかけてのいけばなは、温室の花よりも自1月に入って然の花の冬ごもりのその情緒を、花に活けるのがいちばん好ましいのだが、このテキストのように多くの花を活けようとすると、どうしても温室花を交えることになり、季節感と背致することになる。ただ、その中に出来るだけ賑々しい花材をさけて、なるべく清楚な花を活けようと考えたのが、この二月号テキスト写真である。皆さんもそんな季節感をいつも心にもつことが大切である。一月のいけばなも四月のいけばなも、ただ形だけ美しく、色彩だけ美しければよい、というのであれば、その作品から季節感も、自然の情紹さえもうけることが少ない、ということになる。花を活け詩を愛するような豊かな心をもちたいと思うのである。Rすいせんと寒椿(かんつばき)の紅色の花をとり合わせて盛花を活ける。花器は黄土色の水盤。すいせんは自然で満閲の季節である。越前岬や淡路島の海辺に咲く水仙はちょうどこのごろの季節であろう。庭に12月から咲きつづけている寒椿の花、これはさざんかの一種だが、冬になると紅色の花が囲がって咲き、一般には寒椿と呼びならわしている。ちょうど季節に咲く花をとり合わせて二種、盛花に作ったが、この盛花は温雅な形と、ごく一般的な活けやすい盛花といえる。すいせんに変化をもたせるために、一葉だけ折り曲げたが、これは―つの意匠ともいえる工夫で、面白い趣向といえる。4 R すいせん寒椿(かんつばき)

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