テキスト1974
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これは桑原冨春軒の二階の座敷で本床に山木の立花。棚下の板にすすき女郎花の瓶花を活ける。袋棚の小襖の絵は「秋石」の山水画。この日は山野の材料を採集して活ける踏践会の申合せによって、私の出品である立花瓶花の二つとも、ほとんど自然の花材を使って活けることにした立花は(まゆみ、青楓、松、つげ、ぎぽうし、あじさい、枇杷、ほうずきの枯花)の九種。色のある花はアジサイの赤紫の開花が二つあるだけの野趣のある花であった。また、瓶花の方はオミナェシの黄色、ススキの尾花の二種、花瓶は「唐三彩」の(山木野草による)立花大きい花瓶である。立花は直立したマユミのほくに垂れた枝があり、それに緑の実がた<さんついている。左方へ低い位置から出た青楓の枝は「流枝」ーながしの心に添う様に流麗な枝をさし出している。小さい花だけれどひろやかな感じを持っていると思う。形式にこだわらない自然趣味の立花といえる。また、オミナェシ尾花の瓶花は、これも野の花二種だが、たっぷりとした花器に自然の姿そのままにゆったりと挿してある。この立花と瓶花の対照は古画にあるような日本的な情紹であるが、この日の山木野草を活ける会に調和するように考えた作品である。最近、新しい住宅か段々と多くなり、こんな古臭い感じの家が珍しい、といわれているのだが、この。ヘージに床の花を掲載したのは、年11ながらの床飾りの装飾を見ていただこうと思ったからである。床の間に対する立花の調和という点に注意を向けて欲しい。(花器・古銅立花瓶)(花台・ニ月堂卓)この立花は花瓶に対してかなり大きい花形だが、花台花器とあわせてみると、花もそれほど大きく感じられない。立花の花形は四方にはり出す枝葉によくバランスがとれてあり、活けはじめは倒れる様であっても仕上ると均衡がとれて倒れない。立花(りっか)は型の花であると思われやすいが、実際は決してそんなものではない。盛花瓶花は自由な花というが、立花はさらにそれ以上に作者の自由意志と自然草木の習性を活かして作る花ということが出来る。大体、日本の伝統芸術というものは、基礎の訓練においては実に厳格だが、その教育の時期をすぎるとむしろ作者の自由意思を眸重する広場が設けられてある、というのがその真実である。品礎訓練の期間がかなり長期にわたるので、それにたえきれない人達が挫折するということになる。さて、立花の花材は山野の草木、園芸栽培の花まで広範囲にわたって使用するのだが、そのうち自然の草木の類を使うことがことに実に多い。立花を作るにはまず山を歩くことが必要なのだが、山野に野生する樹木の変化あるもの、水辺の草花までその生育している状態、形、草木の個性をそのまま利用して、つとめて自然の形を活かすように考える。その上に立花の形式技術との結び合いを考えるのだが、枝葉の線の美しさ、空間の処理、その巧みさが最後において立花の品格を生むことになる。ここに掲載した立花は山木野草を主材としたものであるだけに、一屈、立花のこころに通じる作品といえる11

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