テキスト1974
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c R紅色の茎と実、葉までも赤く色づいているヒマ、形も色も変った感じの材料である。これに朱色の花の姫百合をつけた。赤色の中に色の差があり緑の葉との配合が美しい。紫のキキョウを添えて、沈んだギ目色の花瓶に活けた。左右にひろがりのある対照形の花形である。ほんもの、にせものという言葉がある。にせものはほんものを贋造して作ったもので、贋書、股印、贋札などの法律をおかすものから、ちょっと人目をごまかす程度の怪いものまで、にせものの稲類、段階も中々多く範囲もひろい。偽物とは少し意味の迩う「似せもの」というのがある。同じ発音だが似せものは始めから真実のものを校して作ることを、表示したり又は承知させる方法をとってあるもの、つまり、ほんものにどれほどよく似ているかというところに、似せものの技術の巧妙さが別の意味の面白さや価値までも生じることになる。古い陶器の名作を写した「何々写し」という言葉、これはその様式を写したもので、古い作品の似せものであってはならない筈である。古画や新画の名作を校して作った「巧芸画」と称するもの、これは似→ cタメトモユリは七月に咲く山百合である。吉野山に野生するのを吉野百合、箱根に咲くのを箱根百合という。同じ山百合である。いけばなには一ーニ輪ほど花のある細いものが使いやすく、葉の短かいしまりのあるものを選んで活けると格好がよい。雪柳の緑の葉との調和がよい。せものであって偽せものではなく、似せものの定義をはっきりともつ作品といえる。関西人の言葉に「ほんまもの」という言築がある。「ほんまもの」は「ほんもの」と同義語なのだが、ほんまのまの字に剥西語特有のニュウアンスがある。「ほんま」は「うそ」に対する反語なのだが、このほんまものには、そのものへの真実、信頼、尊敬の気持が多分にふくまれている。あの品物は「ほんまもの」という外面的な信用よりも、あの人間は「ほんまもの」だといったり、あの人の事業は「ほんまもの」だという様に、人閻の信用をはかる大変便利のよい言葉として使われる。私達は「ほんまもの」の花を活けたい。(似せもの」のいけばなから「ほんまもの」の、自分だけの心の花を活けたいものである。ほんまものタメトモユリユキヤナギ,

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