テキスト1973
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讐恕.. な造花をいけばなに使うということには、いろいろ疑問があるだろう。いけばなは植物を材料として形を作る考え方がまず第一にある。植物といっても範囲がひろい。カキッバタやナルコユリのように、花のない若葉の早春のころに、葉だけを花瓶に挿すのも自然趣味のいけばなであるし、9相雪のころ枯れ枯れとした褐色の実を季節の風雅として楽しむのもいけばなの―つの趣味である。自然に咲く花のつぽみや閲花を花の自然の季節と考えるのは常識であるけれど、また一方、冬季の枯花を見ようとするのも花を楽しむ心である。これらは、常識でいう植物ではあるが、花の形を工作して写実的に作りあげる造花は、ほんとうの花でなくその中にうるおいを感じることも出来ないし、いけばなの範囲の中に入らない、というのがいけばなの定義のようになっている。定義のようにというのは、ほとんど造花を使うことはないが、時としていけばなの効果をあげるためには材料の中に加えることもあるという、特別の場合があるからである。ホンコンフラワーという特殊な造花があって精巧に作られてはあるが、造花は造花の位置しか認められないし、自然の花に及ぶべくもない。しかし、ここに一っだけ自然の花にない造花のよさがある。それは黒色の色をみることが出来ることである。私はただ―つ造花の特長は黒色の花だと思っている。まの花のユリ、アジサイ、バラ、洋岡などのように色彩の美しい自然の中に、黒色の造花を加えて活けた場合、新しい感じを出すことが出来るという、特殊な考え方も新鮮でしかも美しい作品をつくる考え方だと思う。フラワーと淡青色のアジサイを活ける。洋種のアジサイは「ハイトランジャ」という。うるおいのあるアジサイの花葉と黒い花葉の造花のバラとの色彩がはっきりとした色の対照をみせている。花器の黒とバラの黒とが同色であるのも面白い。cAと同じ花器に黒色のホンコン造花のバラを曲線にためていけばなの形に作ったが、自然の花にない自由な技巧が加えられるのも特徴である。この瓶花を洋室の棚へ飾ると調和がよいと思うのだが、いけばなとしても変った感じのものであるから、小品ながら引きたつ花であろう。造花は永くもつという特徴があるが、この永く飾っておくというところに造花の欠点がある。花は常に新しくとりかえるところに、その美しさとうるおいが感じられるのであって、造花の様に永く変らない点が、むしろ造花の欠点ということになる。この写真のような小品花も、普通の花のように一週間程度でとりかえるのが理想である。c 5 c 花・バラの造花アジサイ

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