テキスト1973
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間から三時間という長い時間になります。ここでは待たされるというより、ソビエトの人達は、その時間を或る人はゆっくりお酒をのみながら食卓の会話を楽しみ、或人はダンスに興じ、その二、三時間を心から楽しみに没頭しているという感じです。食事もおお急ぎにしてスケジュールに追いまわされている私達一行とは全く対照的でうらやましい限りでした。「私達も日本に帰ったら、ソ連の国民のように大らかになりましょう。」とよく笑ったものでしたが、ソ連人は私の見たところでは、で快活な人が多く、素朴で外国人の私達に、とても親切でした。先程モスクワの町は気楽な町だと書きましたが、たしかに都会人が多い筈なのに、それらしい人が居らず、異国の都会に来ているという窮屈さはまるで感じませんでした。でも時と場合によっては、外因人に対して警戒心をもつ人達にも出くわしましたが、本当のロシア人の姿はそうではないような気がします。さて、いよいよ私達の目的地である京都の姉妹都市キエフ市のことをお話しましょう。ご承知のようにソ連は15の共和国からなる大連邦国家です。その一っであるウクライナ共和国の首都がキエフで、モスクワ、レニングラードについで、人口は、一五0万人近くあります。キエフは善良モスクワより歴史が古く五世紀頃から歴史が始まり、京都よりも古い都会ですが、ソビエトの穀食地帯といわれているキエフの街のたたずまいは、森と公園と坂道と寺院の町といったような所です。モスクワあたりにくらべると、ずっとのんびりしているし、町の半分以上の面積が緑地帯だから、それはゆったりしたものです。輝くように美しい大河、ドニ工。フルが市の北東部を南に流れていますが、丁度七月のことでもあり、岸辺のあちこちに、日光浴や、水遊びに興じている人々が一杯でした。遊魏船の上から見た感じでは川巾は広い所で一000メートルぐらいあったように思います。川の方からはウラジミールの丘が見え、その緑の中にソフィア寺院やキエフ。ヘチェルスカヤ寺院の金色の塔がそびえたっ姿は、モスクワ、レニングラードとは、ぐっと趣が変わって、国の町といえそうな都会でした。だからキエフの人々は大変明る<ューモアに富み、快活な人が多いようでした。京都と関係の深い町だけに、キエフの人々は私逹に開心をよせ、なんのためにヤボン(日本)の人が来たかということをすでに知っている人達が多いようでした。町を歩くと、いたるところに公園があり、その中は、花坦や芝生が、きちっと整理され、ぐるぐる廻る散水器があり50コペイカ(約二00円)したのにその間に沢山のベンチがすえられています。ソビエトでもっとも目についたことは、広場や公園の中に、この国の政治家や芸術家の銅像の多いことです。あるものは古いものへの執若であり、またあるものは偉大な人物の業績をたたえるロシア人の愛国心からなのでしょう。それとキエフの公園の中には石の彫刻が多くありました。中にはモニュメントのようなものもあり、割合い明る<軽快な感じで、こんなのがウクライナ調ではないのかなと思ったりしました。キエフのメインストリートが、クレシチャチク通りですが、その大通りから少し入った坂道の所に、ウクライナアート博物館があります。石だたみの坂道をのぼった所にある落若いた地味な建物です。ここでキエフ華道展が開催されました。会期は三日間、.約六万人のキエフ市民が明るい南長蛇の列をして見に来て下さったのです。おそらく日本の華道家が諸流合わせて外国で、いけばな展を阻催したのは初めてのことだろうと思います。キエフは、モスクワ、レニングラードより気温が高く、二十五六度はあったのではなかろうか。でも湿度が低いので、からりとした陽気で、汗も出ませんでした。いけばな展の入場料はソ連としては比較的高く、もかかわらず、会場の中は、押すな押すなの盛況で、人いきれでむんむんしていました。いけばなの作品は大中小合わせて約七十点が展示されました。花器は日本から持参した竹器、陶器、銅器などで、花材は後述しますが、すべて現地のものを用いました。私もその大勢の観客の前で、瓶花の講習を身ぶり手ぶりで、一披露しました。百人近い人に囲まれてのことなので、葉はわからなくても真摯な気持で、ゆっくりと説明してあげると相手の生懸命汗だくだくで、言人も理解してくれていることが、じっと伝わってきます。一人の婦人が講習が終わってから、(スパシーボ)ありがとうといって私にキスしてくれました。何ともうれしい気持で、ソビエトの人の感謝の気持が、じかに伝わってくるようでした。この辺でソビエトの樹木、様子を書いてみましょう。ソビエトの森林地帯ではやはり白梓が多く、その他は赤松や落葉松、樅、があり、町の並木道ではマ(とちの木に似ていて、丁度緑色のとげのある実がなっていた)草花の杉などロニエ、ナナ11 花展会場でのデモンストレーション(桑原素子大市冨佐子)

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