テキスト1973
107/149

R八月は草花の少ない季節である。いけばなに使えるような洋花はことに少ない。百日草のジニア、くじゃくそうのマリーゴールド、ダリア、グラジオラス、けいとう、りんどう、チューベローズ、テッポウユリ。最近、トルコキキョウの新種の美しいものが見られるようになったが、水揚もよく色も淡紫、白、淡紅り葉、こうぼねの二種盛花である。ひろびろとした緑色の水盤にたっぷり水面をみせて、これは自然の状景を写実的にうつして活けた盛花である。色彩的には緑の中にこうほねの黄色の花が浮き立つようにみえて、かきつばたの葉の白と対照して夏の花らしい新鮮さを感じさせる。かきつばたの葉を少しななめに向けて、その前後の間にこうほねの濃緑の葉を挿しはさみ、また前部のとうほねの葉を形よく並べて、高低の重なりにも注意した。軽やかな自然写実の中に技巧のはっきりとした盛花ということができる。私達が自然の景色の中の美しい一部分を考えることがある。その部分を盛花として水盤にうつして活けようとする場合、自然の景色の中ではあれほど格好よく組み合わせがととのった草木花でありながら、さて同じ感じに活けようとすると、よほど優れた技術がないとそれを再現するととはむずかしいものである。この盛花はそんな技巧的な盛花ということができる。c1。ヘージと同じ材料、かきつばたのふいなどの種類もあって盛花の材料として使いやすく、盛夏の花として日もちがよい。この花はつぼみの形が悪く活けにくい材料だが、活ける前に堅いっぱみをほとんどとり去って、開花と中開の花だけ残して活けると格好がよい。写真は白色のトルコキキョウに緑のミリオクラダスを配合した盛花で、高足の盛花器に活けた。ミリオクラダスはアス。ハラカスの種類で緑色の美しいものだが、個性の弱い葉もので、洋花のあしらいに使える程度の甘い感じの材料である。R熱帯植物のアテチョークは淡い赤紫の巨大な花が咲く。強い感じの花なので日本趣味には調和しないが、酷暑に咲く花という実感をうける変わった材料である。重量があり、軽い花器では倒れる心配があるので、なるべく短く切って安定するように直立させて活けるのがよい。あしらいの材料はモンステラ、ゴムの葉のような広葉のものが調和よく、やさしい日本種の花や小葉の材料はうけつけないほど、アテチョークは強い花材である。写真には「くまじろばらん」を6枚つけたが、葉の濃緑と白色が色彩的によく、この二種の単純な形が一致していると思う。アテチョークの花を首もとから切って、ガラス器に果もののように二個ほど盛るのも面白い意匠的な花となる。とにかく短く切るほど活けやすく形もよく、長いほど活けにくく形もよくない。5 c かきつばたの葉こうほね

元のページ  ../index.html#107

このブックを見る