テキスト1971
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いちはつは漢字で「蔦尾」と書く、中国原産の花で、白色と淡紫色の二種がある。アヤメ科に属する花だがカキツバタの様な品格がない。古い和名で「こやすぐさ」というのだが一本の茎にいくつもの花を次々と咲かせて、どんな場所でも安々と生育する性格が、こやすぐさなどという名を冠したものと考えられる。秋桜子の歳時記に「面白いのは田舎家のわら屋根に根をもつて五月頃になると、白や紫の花を咲かせる」とある。わら屋根やいちはつ咲いて橋の下という句があつて、なんとなくひなびた野趣を感じる花である。いちはつを屋根に植えると、火災を防ぐという迷信からもきているようである。さて、いけばなの材料としては、手ごつい感じで風雅なやさしさに乏しく、瓶花盛花よりも生花に活けたほつが感じがよいと思っ゜カキツバタと同じような葉組をして活けるのだが、少し違うところはカキッパタの葉は平面的に立てて(少し斜に葉を使うこともあるが)活けるのだが、イチハツは葉をななめや横向きに使って活けることが多鬼城い。葉のはばが広いので、材料をよく選んで、重くるしい葉組みにならない様にすることが必要である。花は自然の姿をうつして、葉よりも高くぬきでて見えるように挿す。葉のそりを利用して曲のある花型を作るようにする。葉組みは花のある前部の葉組みは五枚組みとし、花のない葉は三枚又は二枚とする。真副など後方の葉組みは下葉を省略して、三枚組みとする。.. 華道の歴史を考えてみますと、のはじめの室町時代から今日に至るまでには、多くのうつり変りがあります。武家寺院を中心とした時代のいけばなもあり、江戸中期より末期へかけて、町人文化の発達した時代のいけばな、また明治に入って今日のいけばなまで、その時代のうつり変りにつれて、形式もさまざまに変つております。いけばなは生活を飾る装飾美術でありますから、私達の生活様式が変るにつれて形式も変るのが当然であつて、文学や絵画が伝統の形式から現代の新しい様式をそなえるまで、幾多の脱皮を重ねているように、いけばなの性格と技術の変わるのも当然なことであります。ことにいけばなは陶芸と同じように、生活に密着する実用面をもつており、常に生活を飾るための花、生活にいちばん身近かないけばなとして、実際に役立っためのものでありますから、生活様式の変化につれて、いけばなの作り方、考え方の変つて行くのも当然でありましよう。いけばなは生活を飾る美術素子たとえば飾る場所、花を活ける花器もたいへんな変り様でありますし、いけばなの素材である花の種類そのものも、このごろのように園芸の技術が発達してきますと、これまでみなれない花を活けることになり、そんな点からもいけばなの考え方を変えねばならぬことになります。いけばなは鑑賞するものであり、同時に自らが作者であるという点は、他の美術と特に変ったところでありますが、同時に、いける皆さんが常に一個の美術家としての考え方をもつてほしいということであります。いけばなは実にひろい面をもつており、いける人達が自由に、どんなに活けてもそれがいけばなになる、という広やかなものであります。それだけによいいけばなを知るということがむづかしいわけであります。「よいいけばな」とはどんなものでしようか。もちろん華道として形式と技法が定つているのは当然であり、よいいけばなを作るためには練習を放み、研究を重ねることが大切であります。しかしそれと同時にいちばん大切なことは、それを作る考え方、考案のすぐれていることであります。最高の美を知ること、そして少しでも自分の作品を高くもち上げて行こうとする信念をもつことが望ましいのです。いちはつそ12

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