テキスト1971
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ぼたんが終りしゃくやくの季節もすぎ、段々と暑さを感じる季節になると、いけばなにもすがすがしい緑の葉の多い花材が好ましい。華美な花よりもさっぱりとした、淡泊な趣味のいけばながよい。二種挿しの瓶花よりも一種の材料で活けるのもすつきりとした感じがして好ましい。あじさい、てっせん早咲きのききょう、あざみ、すいれん、こうぼねなど、一種で活けて充分美しさをみることの出来る花である。ことに六月に入ると笹百合、小鬼百合、ためともゆり、うばゆり、リーガルリリーの様に百合の類が多く咲き出し、青葉の山木に添えて活けるのもよい調和だが、また一種挿しとしても充分、色彩も美しく清楚な趣味の花を作ることが出来る。あしらいの花を添えて二種一_一種と交挿するのは、一種類の花材だけでは色彩的にも淋しく、形の上から考えても単調であるから、あしらいの花を添えて美しさを増そうとするためであって、もしそれが一種の花で充分である場合は、副材をつける必要はない。ことに暑さを増すこれからは華美な花よりも清楚な花、さつばりとすがすがしい花が好まれることになる。美しい花の咲く草花などは一種で活けたほうが、花を引き立てることにもなる。大輪の花、色彩の強い花、水草の類はことに一種挿しが好ましい。これは瓶花の場合も盛花の場合も同じ考え方でよい。花器もガラス器の透明のもの、白竹の篭の類、白磁青磁の陶器、藍絵の花瓶など夏向きの花器といえる。要するに花材も花器も季節の感じに調和するものを選びたいものである。すだれ趣しに見る青葉の季節である。しめ切った部屋に冷房器具で温度を調節するこのごろであるが、私達の生活が電力に支配される以外に、自然のうつり変りや四季の情趣を楽しむという、趣味の生活を大切にしたいものである。紫の花菖蒲を一種、瓶花に活けた姿。笹百合をかけ花に二輪ばかり軽やかに活けるといった趣味は、いけばなの真実のよさを楽しむ花といえる。毎月1回発行桑原専慶流No. 96 編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元一種の花1971年6月発行専渓いけばな

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