テキスト1971
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桜は日本の代表的な花である。一月に咲く早咲きの「元日サクラ」から五月のはじめに咲く種類もあり、その品種も随分多い。私達が一般にいけばなの材料に使うのは、ヒガンザクラ、ヤマザクラ、ソメイヨシノ、サトザクラなどで、彼岸桜は三月の末より四月はじめまで、山桜と里桜は四月中旬ごろに活けることになる。「日本樹木図鑑」の中にある桜の名をしらべてみると、チシマザクラ、ウワズミザクラ、チョウジザクラ、マメザクラ、ノヒガンザクラ、エドヒガン、コシノヒガンザクラ、タカネザクラ、オオシマザクラ、キンキマメザクラ、ミヤマザクラなど随分めずらしい名が見られるが、一般的に知られているのは、ソメイヨシノ、ヒガンザクラ、ヤマザクラ、サトザクラなどであろう。サトザクラは木振りの太くひろがった桜で、京都御室の桜で有名な一重咲、八重咲きの桜で重厚な感じの花が美しい。ここに掲載した桜はヒガンザクラの生花で、四月二日に活けたのだが花はすでに満開、美しく咲き揃つている。ヒガンザクラは紅の花色が美しく生花の材料としていちばん適しており、三月の末に花の紅色が、赤飯の色に似ているので「おこわ」の桜と一般的にいわれている。写真の花形は留を普通より少し長く作った「留流し」の形で、枝の揃いものどかに自然風の味をもたせて、わざと「ざんぐり」とした調子の形である。桜の生花は一種で活けるのが好ましい。ことに八重桜は一種生と伝統的に定つているのだが、水盤株分の場合は特に清楚な材料を選んであしらいとする。瓶花盛花の場合でも、華やかな色彩花をつけるよりも、緑の多い花色のしずかな材料をつけると上品にみられる。椿、すかしゆり、てっぽうゆりの花の堅いもの、しやが、春蘭の花など自然風のものが好ましい。八重の里桜など花の咲いたものは、一種の瓶花に活ける、というのもよい趣味だと思っ゜さ< 毎月1回発行桑原専慶流No. 95 編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専疫流家元青葉がくれのおそざくら初花よりも珍らしく,という古い言葉がありますが,この月号は巻頭におくればせの桜の生花を掲載して見ていただくことにしました。(専渓)いけばなら1971年5月発行

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