テキスト1971
28/154

@〶られたクラマゴケなどは水をうける部分だけ目立つて枯れる、といわれています。植物には酸性のある自然水がよいわけですから、水道の水よりも地下の自然水がよいということになります。幽芸業者ことに盆栽の培掟などには、井戸水をたくわえてそれを使うということです。水道水は煮沸するとカルキ分を除去することが出来ますから、自然水と同じような水になる、といわれます。切り花の場合も同じことがいえます。水道の水を花器に入れることが一般的ですが、井戸水が花の水揚のためによいことはいうまでもありません。昔から水揚のむづかしいものは、井戸水を使う様にといわれていますが、蓮などの夏の水草はその生植している池の水が水揚のために最もよいといわれるのは、この理由と同じだと思います。水道の水なれば容器に入れて時間をへたものを使うと、軟水と同じ効果をもちますから、水道口より直接の水よりも花のためによい結果をもたらします。夏の草花などを活けるとき、花器に微温湯を入れて「ぬるま湯」になった頃を考えて花を活けると、水楊のためによいのですが、自然水に近い水を待るという、以上の話と同じ意味といえます。花の水揚をするとき熱湯に切り口をつけたり、足もとを煮沸したりするのは、切り口のバクテリアを殺す役目もありますが、また、水を自然水にかえすという効果も同時にはたすことになる訳です。随つて切り花には新しい水道水よりも、汲みおきの水がよいし、自然水に近い湿度(地下水の)がよいというわけです。なんてんを庭から切りとつて新しい水につけると、葉がふるい落ちます。古い水につけると長もちがする、というのは自然水と水道の水の差に敏感であるという、いちぢるしい例といえます。大体において植物は環境に順応した水を与えることがよいのですから、いけばなの花器に急に冷水(水道水の)を加えたりするのは、季節によっては悪い結果になります。温度の急激な変化はよくないということです。温室の花を冷えた部屋に置いたり、暖房の高い温度の部屋に入れたりするのも、同じ意味でよくありません。植物や養魚には自然水がよい、というのと同じ意味で、切り花にもなるべくは水道水を直接入れるよりも、汲み置きの水の方が適切であるといえます。私の家(冨春軒)では、その意味で水槽のようなものを幾力所にも作つております。水道口の下に水溜めを作り、そこから汲みとるようにしていますが、水道直接よりはよい結果が出ております。料理に使用する水も同じことがいえると思います。カルキ分の臭気は料理の味わいに関係があると思いますし、清汁の場合などことによくないときいております。勿論、衛生の問題と関係がありますが、井戸の冷水、温水の効果は大きいものと考えられます。茶道には、昔から水を大切に考えられていますが、天然の水で点てた茶は味をよくするといわれますし、器物に対しても影響もつものと思います。カルキ分のある水でたてた抹茶は当然、茶の味をさげるものであろうし、白湯でのんだときはつきりとその区別がわかります。名井の水で茶をたてるというのは、故ないことではありません。京都東山区新門前松原町の頼山陽家は、鯉の掟成で有名ですが、すべて井戸水を使われるとのことです。陶器の名家、宇野仁松氏の鯉も実にみごとなものですが、いずれの場合にも水に苦心されているとのことです。社会的に水の問題のやかましいこのごろ、風雅の柑界の水について思いつくままに書いてみました。桑原冨春軒の井戸と水溜京都北山の農家の井戸民家の井戸12

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る