テキスト1971
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梅は中国原産の花であるといわれる。雅致のある樹枝と清楚な花の形は、「好文木」という雅名のあるように、古い文学の中にも多く話題を残している花である。奈良朝のころに中国から渡来した花木と伝えられているのだが、「疎影横斜」などという言葉もあって、その形姿が中国の文学絵画の題材として好まれた花であろう。日本でも古来、文学絵画の中に多くとり入れられ、染織の図案や紋どころにも用いられる様になり、日本の代表的な花として賞美されるようになった。梅は花が美しいとか樹枝の姿が面白いとか、外面的な美を尊重する以外に、その花の気品とか、早春の季節に咲<i喋烈な感覚を愛するとか、またその詩趣を愛するとか、そんな内面的な美しさが、われわれの心を深くとらえて、桜とともに日本の代表的な花ということになったものと思う。また郷土の風景にぴったりとする樹木であるというのもその―つの理由であろう。梅には品種が沢山あるが、白、紅、薄紅の三種に大別することができ、また単辮重鑽の二種に属することになる。山に野生する野梅、白加賀、捉老、盟後、青軸、小梅などが代表的な区別であり、和歌山、鹿児島、群馬、埼玉などが主な栽培地ということである。梅の名所といわれるのは全国的に多いと思われるが、ある書物によると水戸の階楽園の梅が有名であり、国文学を聡重した水戸の気風と梅の花の感覚とが調和したものとされているのだが、一説には梅の果実を梅干にして、戦陣の食糧にするために水戸藩が植樹を奨励したという話もある。訓梅(ろうばい)は黄色の花を咲かせて、ことに香気のよい花だが、これも原産地は中国で、盾梅、蘭香梅、南京梅などといわれ、本来は梅の種類ではなく別種のものである。梅の咲く頃に咲き、香りもよく似ているので梅の字をつけられているという。本草綱目に「その梅と同じ時に開き、香も亦、相近きを以つてかく名附けたり」と記されている。桑原専渓毎月1回発行桑原専慶流No. 92 編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元いけばな梅1971年2月発行

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