テキスト1971
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前月号に飛騨高山の話を書いたが、ここでは飛騨の民家とその台所器具である「木舟」について書いてみよう。高山市の西方松倉山の麓に「飛騨民族館」というのがある。飛騨地方の古い建築や生活什器などを陳列して一般に参観させているのだが、その一群の中に荘川村より移築された「若山家」の切妻合掌造りの建物がある。下の写真が若山家の外壁の一部なのだが、若山家は御母衣ダムの開発により、水底深く沈む運命となったのを、山市が譲りうけて文化財として保存しているのである。合掌造りのかやぶきの農家は、その他にも保存されているものが多いが、この若山家の建てものは四階造りで一部が五階となつている。大家族同居の名残りだが、間口17メートル、築で、その一階の台所流しもとに、下の写真(いけばなの花器に使ってあるもの)の様な樹幹をくり抜いて作った「木船」といわれる大きい水槽が置いてある。かなり大きいものだが、み、炊事の便にする洗い場なのであろう。この木船は高山市の久田屋という旅館の主人が、私の依頼にこたえて、白川郷の農家からさがし出してくれたのである。この木船は長さ百七0センチ、横はば五六チセン、高さ五0センチの大きいものである。大木の幹を手おので削りとつて、穴を彫り込んだもので、いかにも山村の家具にふさわしい素朴さと、荒々しさをもつており、民芸品のもち味の深いものである。十月の桑原専慶流展のとき、これを花器につかつて大作の盛花を活けたが、豪壮な感覚があつて、のある作品を作ることができた。(下の写真はその出品作)このような民芸品はまた別に「げてもの」などといわれるのだが、いけばなの花器として応用すると、中々面白い情緒をみることができる。花器の中には一方には美しい陶器、漆器、ガラス器のような工芸品(じようてもの)があるが、々な性質の器具を使うことが望ましい。奥行18メートル、高さ17メートルの大建谷川から水を引いてこの水槽に流し込花器の趣味として多方面にわたつて、様会場に異色横9尺、高さ8尺ほどの大作盛花である。会場作品で前方から見る場合と、後方より見る場合と、両面に表を作つてある。中央に高く立つているのは「竜舌蘭」の茎に実のついたもので、珍らしい材料である。右方のツルは「紅ツル」いるのは桑の木の古木、中央にムロの群り、下部に低くムロの枝、中央〶木船を使つた花展出品作、左方に出ての部分には椿のフィリ葉の群り、花ものとして白椿の花、黄色淡紅色のけいとうが沈めて使つてある。花器の内部がほとんど見えないのは残念だったが、高山の民芸「木船」が、近代建築の大会場に、花展の花器として使われたのは珍らしいことである。花器の中には鉄製の箱を2個入れて、それに花材を入れた。⑮ 飛騨荘)ll村の合掌造り民家(高山民芸館に移築)(10月桑原専慶流展)高11

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