テキスト1970
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いけばなに使う花器には多くの種類がある。竹を切つてそのまま花器にすることも出来るし、金属器や陶器の美術的な作品も好んで使うし、一般的には花器として作られた壷や水盤の類、これにも種類が多く、花器として立派な芸術品も多い。これらはいずれも花を活けることを目的に作られた器物であつて、これらを花器という名前で考えるのが、私達の常識となつている。ところが、これとは別に、花器として作られたものではなくて、食器、手提篭などの類で、花器に応用して使うこともあり、こんな器物が案外いけばなを引立てることも多い。私達はこんな容器を応用花器という名前をつけて、いけばなの中の意匠的な作品を作るのに、こんな傾向の器物を使うことも中々多いのである。したがつて花器の範囲は実にひろいのだが、その中の―つに「民芸品」といわれる性質の器物がある。これについてその意味の簡単な説明と、また、それを実際に使ったいけばな作例をおみせして、この方面の理解に役立てたいと思う。葉なのだが、広辞苑によると民芸とは「民衆芸術」「民族芸術」「郷土芸術」ているが、この中で一ばん適切なのは「民衆的工芸」が、いわゆる民芸といわれる性格の作品をさすのに適当な呼び名であると思う。なつてから約四0年になるのだが、大正年代に柳宗悦氏などによって、日本の各地方にある手工芸品の中で、たとえば身のまわりの道具類、衣服染織、家具、食器、文房具、あるいは生産の作業に使う農具の類、工具、漁具などの中に、すべて生活に直結した工作品であって、しかも、その中に巧まざる美しさをもつ工作品を推賞したことに始まる、といわれている。り、美を意識して作られたものではないが、健康的な美しさが感じられ、しかも郷土の香りがにじみ出たような品、実用的な用途をもつておりながら、しかも素材の素朴な味わいと、大衆的に使用できる用途をもつているという点が、美術的な作品とは全然別な面白さや、風雅さや、趣味の深さをもつている、というところに、民芸の特質を見ることにな民芸という言葉は比較的新しい言「民衆的工芸」のこととなっ民芸という言葉が使われるようにこれらはいずれも生活用具であったのである。最近、民芸品という言葉は一般に理解されるようになったけれど、この傾向の器物は、風雅や趣味の品として作られるものとは、全然、別のものであって、健康的な実用品の中から選ばれた品ものである。したがつてひろく大衆的なものであり、しかも安価な品ものであること、手工芸の手づくりの器物であること、その中に巧まざる美が存在するといったのが、民芸のほんとうの意味であると思う。手づくりの工作品の中にはそれを作る人達の、生活がにじみ出ているだろうし、実際の用途のために一ばん便利な工夫が加えられておるわけだが、この実用的な工夫のある作品が、巧まずして風雅な味わいをもち、その形の中に堅牢な性質と、郷土的な面白さを感じさせるものがある。この実用一方の作品を、私達の美術に関係のある方面からみると、巧まざる美、というものに深い興味を感ずることになるわけである。随分以前のことだったが、南洋地方の土人の作った篭をみたことがあった。材料は密林にある蔓草の類、籐、竹の類で作られたものだったが、その編み目の美しさと、背負いの篭、魚篭、その他の生活用具の形の美しさに、目をみはったものだった。これらの作品は実用のための器具で、用途のために線達された技法で作られたものだったが、私達がこれをみて、その作品の中に意外な美を発見して驚いたものだった。民芸というものは、これと同じ性格のもので、生活に直結する実用品の中に索朴な美をもつもの、ということができる。最近いよいよ発達した機械製品の合理主義に対して、自然と人間が結ばれた素朴な自然の作品が、民芸ということになるのだろう。機能的な都会生活者にとつては、原始的な民芸品の魅力は深い。また民芸品の用途を知りその作品をみて、自然の美しさを省みることが多くなった。「民芸は現代文明に対する批判である」といわれるのも、必ずしも一方的な見方ではないと思う。民芸といわれる工芸品の中には、多くの種類がある。陶器、ガラス、木工品、竹工品、敷もの、麦稗真田製品、草、蔓、木皮製品、金属品、その他、その地方特有の工作品があるはずである。藤ツルやあけびの蔓を利用した製品、木工品、わら製品、陶器の類など、ことに多い。さて、私達がいけばなの花器として、民芸品を使うことが行われる。素朴な形と、民芸品の野趣が自然風ないけばな材料とよく調和して、その郷土的な情緒をあらわすことがで染織品、紙工品、きる。農村山村の情趣をこれらの花器によって一恩深い味わいを作り出すことにもなる。民芸品は全国辺土の生活用具であることが多く、それぞれの用途をしらべて、その中から花器として適切なものを選んで花を活けるのは楽しいものである。特に仕意したいことは、花器として美しい感じのもの、趣味の高いものを選びたい。最近「民芸屋」という面売があって、売らんための民芸調の器物を多くみるようになった。本釘的にいえば、わざわざ尚品として作られるものは、民芸の性格からは外れたものであって、民芸を虚飾とする流行的尚品である。これは真実の民芸とは遠ざかった別のものであつて、民芸趣味とか民芸調とかいう言葉は、真実の民芸とは、その性格を異にするものといえる。この「テキスト87号」では、民芸の容器を花器に使って、それに調和する花を活けてみた。最近、高山で買ったものもあるし、以前からの手持の器物もある。花の材料は自然趣味の山木野草の花が一ばんよく調和するが、洋花でも渋い感じのものなれば、共通する感じがあつて落着のある調和となる。美しい芸術陶器の中に、素朴な民芸の花器を加えて、活けかえて行くのも気分が変つて楽しい。(専渓)2 民芸の花器

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