テキスト1970
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の早咲きは「地室」Iぢむろ—ー'しじゅ」の様な木の実の材料。低い草花では「岩かがみ」「雪割草」「クリスマスローズ」「福寿草」「フキノトウ」の様に索朴にわびしい姿のうちに、冬にたえる草花をみることができ、積雪の中にも春の色を加えてゆく植物をみると、自然の美しさをしみじみと感じるものである。雪の降る一月二月のころ、庭に出てみると、降りつもる雪の中に「なんてん」の実の重たげにたれて、赤い実は隆々として季節の色をみせている。おもとの実も、せんりようの赤い実、さざんかの種類でま冬に咲く「寒つばき」の豊かな紅の花も、緑の葉の中に小型の美しい花を咲かせる。雪の日はまつ白の中に木の葉の緑や、実の赤。はなやかではないが、なんとなく新鮮な色どりをみせてくれる庭の冬は、決して佗しいものではなく、季節の情結を充分に感じることができる。「裸木」すつかり葉の落ちつくして冬枯れの中に立つ木。11月から12月へかけて黄葉をおとしたかんぼくきようほくの類。このころからいけばなにも冬の姿をみることになる。梅、木蓮、はんの木の様に葉のない枝ものに椿やその他の草花を添えて活けることになる。「ろうばい」の咲きはじめるのは12月の末から1月へかけて。猟細工に似た黄色の花がしし‘,0 下向きに横向きに咲き、蘭の香の様な芳香を放つ花。猟梅にも種類があつて、その中に「素心ろうばい」しんーというのがいちばん美しい。だんこうばい(唐ろうばい)という索心ろうばいのほうが品格もよく美は、冬季は自然栽培の材料だけであるから、冬は実ものを使うことが多かった。「うめもどき」「なんてん」き」「まんりよう」「せんりよう」じ」「きりの実」「さんざし」「まゆみ」のように紅色の実、黄色橙色水仙、冬季の花材としたらしい。枝、葉と実などの形を主材として、色彩的にはきわめて素朴な考え方で冬の花には一部分に花の色を加えて専ら造型的にいけばなの美しさを作色彩のいけばなは、陽春より晩秋まく、椿は短かく切つていけ花に使うもの、短かく使う場所も「みずぎわ」のは花の中に褐色のみえるものだが江戸時代より明治へかけてのころ「もちの実」「たらえ」「からみず「たちばな」「おもと」「やぶこうの実ものを材料に使って、これに椿きんせんかなどをあしらつて立花生花の時代であるから、幹とったものと考えられる。はでやかなでということになつていたものらし椿はそのころの珍花であったらし、。などに、うけ筒を利用して挿す、という習側があった。花の乏しい冬にーそは佗びしく咲く花や、木の実の色をいけばなの色として、しずかな趣味を楽しんだものであろう。わらを重ねて雪がこいをした「椿」や「寒牡丹」の庭の花が、貨重な材料であったころの話である。江戸時代の木版画をみると、寒牡丹や寒菊に「わら」で作った箱よけのおおいをかぶせている圏を見ることがある。したがつて、福寿草の早咲き、岩かがみの葉の紅葉、やぶこうじの実春蘭の花、うぐいすかぐら、はたうこん、たにぐわ、くろもぢ、とさみずきの様に、早春に芽ぐむ木の枝を材料として、つばきやすいせんをあしらって、かけ花や附き花の小花瓶に活けて楽しむという、自然の中の趣味を楽しむ、まことに索朴ないけばなの姿であったらしい。「うぐいすかぐら」という木がある。早春2月ごろ、細い木の枝ものに淡い紅色の小さい花が咲き、なんとなく風雅な姿をもつているので、茶花に喜ばれるのだが、これはぐみの種類で「なわしろぐみ」「とうえぐみ」などといわれ、5月ごろ実の色づく低木である。「うぐいすかぐら」などといわれて茶席に賞美される木であるが、又の名が「へびぐみ」「ちょうせんぐみ」などという名がある。というと風雅もどこえやら、ということになる。しかし、早春のころに咲く花として、この「うぐいすかぐら」や「ゆきわりそう」「やぶこうじ」「春岡」など、また春のさきがけに咲く「おおばい」など、いずれも雪をかぶつて咲く寒冷の中の花であつて、早春を告げる花ともいえるものである。鴬が「春告鳥」といわれるのだから、福寿草や、クリスマスローズなども、以上の花とともに春のはじめをしらせる花ということができるだろう。冬季に花を咲かせるのは温室というのが常識のようになつていて、温室咲ぎという言葉がおきまりになっているが、私どもの子供のころは温室咲きとはいわないで「むろ咲き」といったものである。これには迎由があって、そのころ12月の末に咲かせる梅や椿、雪やなぎなどの木ものに入れて咲かせたものである。ぢむろというのは、腸あたりのよい山の斜面に(京都付近では桃山木幡など)深い穴を掘り、それへ切り花を入れて地熱を利用して花を咲かせる。これが地むろである。そのころはほとんどこの方法で、梅、桃、桜などの春の花木を早咲きさせたもので、市巾の空井戸(からいど)などを利用して、地むろに使ったものもあった。石炭をたく現在の温室は大正年代に入ってから普及されたものの様である。京都市内でも水の涸れたから井.. 戸の底をひろげて、入り口は普通の井戸で、中へ入って行くと版が10メーター四方に拡張されており、そこには枷、つばき、さくら、もくれんの様な切り花が、水桶につけこまれていて、これが15日から20日程度で美しく咲くという、自然熱の利用による促進閲花の方法とでもいったことが行なわれていた。その他、温呆熱の利用とか商完には府売の経済的ないろいろな方法があるらしい。最近、12JJに咲くすいせんが、のびやかに背高くなったが、花首が柔らかくなつて形が悪いものが多い。栽培法がかわったのか、肥料の関係にもよるのだろうけれど、活ける私達には感心しない傾向である。なたねでもすいせんでも、冬の草花はぐつと首もとのつまった様な、いかにも寒冷に堪えて咲く姿に雅趣が感じられるのであって、だらりとのびて咲く冬の草花は感じのよいものではない。(12月17日記)、11 ••

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