テキスト1970
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'> ‘,0 12月もすでに半ばをすぎ、2週間ほどで新しい年を迎えることになる。表通りはなんとなくあわただしそうだが、私の家は町並みから入り<んでいるので意外に静かで、京都の中心部とは思えないほどである。二階の窓に向つて庭の木の、椿、槙、その向うの竹の茂みなどをながめていると、付近の六角堂の鐘が大きく心の中までひびいてくる。―町あまりの距離なのだが、ガラ専汲器ス窓の向うにみえるいくつかの屋根を越えて伝えてくる梵鐘の音は、意外に大きくきこえるものである。ことになったのだが、そのはじめから読者の皆さんとお話をするつもりで書きはじめたのがいつしか習慣のようになつて、季節の変るごとに、花のうつり変りにつれて、つれづれの花の日記を書きつづけたことになった。こののちもつづくだけがんばつてみたいと思うので、皆さんの支持をいただきたいし、また、このテキストを通じていけばなの勉強を重ねて欲しい。季節となった。年末も25日をすぎると例年の様に仕け込みに忙しくなるのだが、花屋のほうでは「梅の市」テキストもこの号で80号を迎えるさて、いよいよ迎春の花を活ける「松の市」「せんりようの市」などが皮きりで、25日26日の草花の市までが仕入れの時期であるらしい。12月へ入ると、秋菊の種類も段々と少なくなり、寒菊の紅葉や水仙の早咲き程度のものしか、特微のあるものもなく、やがて近づくクリスマスの花や、新年の花の方に花屋も主力をそそぐことになり、12月の稽古の花はも一っ魅力のあるものは少な季節の花といえば「ろうばい」「せんりよう「「つばき」などのよい季節なのだが、それも年末の材料と重なるように思えて、今―つ気がすすまない。大体、12月から1月2月の季節はま冬の自然の(露地をふくめて)花の一ばん少ない季節である。いわゆる冬枯れのシーズンで、反対に、温室函芸のまつ盛りで、四季の花の咲き揃う最盛期でもある。私逹、花を活けるものにとつては、この寒冷の季節でも材料もふんだんにあり、美しい盟かな花を見ることができるのだが、少し現実をふり返つてみて、自然の季節感、ま冬の目然の草木の姿を考えてみるのも、花を活けるものにとつて必要なことだろうと思うのである。この季節は一ばん花の少ない時期であるだけに、山の木ものにも特徴のあるものが少なく、露地栽培の材料も少ないが、寒さの中にある草木の姿には、また、その季節の風韻とでもいった味わいがあって、雅趣を感じる場合が多い。たとえば、霜やけして黄ばんだ菜種の花、ずんぐりと押しつまって縮みこんだ花にはいかにも早春の感じがあるし、猫柳の芽の少し大きく銀色の実をみせている姿など、いかにも季節感があつてよい。ふきの浅みどりの若芽、木いちごの垂れた枝、冬黄梅の枝にも日増しに緑の春の色を加えるようになるだろうし、こんなに自然をみつめていると、美しい温室の花をみるのとは異った自然の営みを感じるものである。冬に咲く花、冬に鑑賞するための木の実の類もいろいろある。水仙、つばき、おもと、せんりよう、なんてん、梅、ろうばい、黒もじの芽、にわとこの芽、猫柳、その他、早呑の花材にもことかかないが、自然にある冬の草木を考えてみると、温室花には感じられない自然花の風雅がある。今H、私の手もとに送られてきたタキイ種苗の雑誌「園芸新知識」をひらいてみると、な頭のカラー写真に「赤い実の庭木」という写真記事が掲載されている。冬季に美しく色づく実ものの写真が紹介されている。ビラカンサの種類や、小さなリンゴの実をつける「クラブアップル」「ソルブスデコラ」などの紅色の庭木が美しい。こんな美しい冬の実ものをみながら、私達が冬季の温室花をはなれて、自然の季節に咲く花その他の季節の植物で、いけばな材料になりうるものは、いったいどんなものがあるだろうと、考えてみる。私達の常識では、12月に入って寒菊の花が終ると、いよいよ秋との訣別ということになり、その後のいけばなに色を添える材料として(温室花をのぞく)すいせん、なたね、きんせんか、はぼたん、バラの葉の紅葉と残花、木の材料では早咲きの「ろうばい」「うめ」「元日さくら」などの木の花。椿の種類、猫柳、黒柳などの種類。実の種類はことに多いが、普通には「なんてん」「せんりよう」「たちばな」「やぶこうじ」「からみづき」「たらえ」「さんご師走雑記花そしんろうばい水仙備前焼寒椿10

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