テキスト1970
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草の実秋草の九月は、ついきのうのこととばかり思えるのに、はや十一月もあまり数日になつて、寒ざくら、つばき、すいせんの花が咲き、紅葉の季節もすぎて、冬を迎えるこのごろである。夏から秋へかけて、木々の呆実、草の実がみのり、十一月のこのごろには、紅く色づき、あるいは黒く紫に色づいて、紅葉の諸木の中に雅致のある風情をみることになる。まことに晩秋は木の実、草の実の風雅をみる季節であり、いけばなの材料にも実ものを活けることが多い。柿、かりん、ざくろ、ぽけ、うめもどき、いいぎり、のような木の実。また、山ふじの実、山ぷどう、さんきらい、あけび、むべ、などの山のつるものの実、蓮の実、かきつばたの実、ひおおぎ、ひまわりの実、など瓶花の材料として用いることも多く、豊かな色の菊の花を二、三本そえると、簡単に調和のよいいけばなが作れる。ただその中に、あらわすだけではなく、いけばなを平凡な秋の情緒を作る私達として、なにか、新鮮な意識をその作品の中にあらわしたい。形の上にも色彩の上にも、工夫のある作品を作りたい、と考えることが大切なのだが、自然趣味の深い秋の瓶花盛花の中においては、思い切った変った涸子の花を作るのは、案外むづかしいものである。秋には秋の情結のある花を活ければよいが、また、その中になにか新鮮な工夫のあるいけばなを作ることも、一贋よいことである。このテキストは10月下旬に挿花したものを写真にとったのだが、つとめて、変化のある材料を配合して撮影した。秋の実ものを主材に選んで8作ほど作ったが、渋い感じの実ものにも袢花が謁和する場合も多く、ダリア、グラジオラス、など忍外に調和する場合がある。このページの写真は、ナナカマド、モンステラ、デンファーレ蘭)の三種で、ナナカマドの赤い実、デンファーレは紫赤の明るい色の花、モンステラの謀緑の葉、この三種をうす紫の花瓶に立体に挿した。自然趣味のナナカマドの実と茎、それに反対の洋花二種ではあるが、色調も美しく形もよくととのつている。モンステラを正面に向けて緑の量をたっぷりとみせているので、全体をしつかり引きしめているのだが、この様な取合せは、材料の感じを超越した配合の美を作り出しているのだと思う。(洋.... 毎月1回発行桑原専慶流No. 89 絹集発行京都市中京区六角通烏丸西入木の実.桑原専慶流家元専汲いけばな1970年11月発行

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