テキスト1969
89/147

ガラス器のいけばなガラスの花器は夏季にだけ使う花器と思われやすい。透明なガラスの肌を通してみる水は、たしかに清涼な感じをうけるし、尖鋭なカットガラスの光沢は犀利な爽かさを感じるのだが、最近のガラス工芸の発達によって、不透明の色ガラスの花瓶、すりガラスの面をもつ花瓶など、作品の種類も多くなって、ガラス器は夏季の花器とのみ考えられない広い範囲がある。江戸時代、またそれ以前のガラス容器をみても、趣のある作品があり、陶器かと思われる様なまるみをもったガラス器をみることができる。ガラスのコップをみて、これは夏の食器だと、だれも考えない。これと同じ様にガラスの花賄は夏の花瓶だと思わない様にしたい。四季を通じて使うことのできる花瓶であると息いたいものである。篭の花器も夏の花器だと思われやすいが、これも同様、四季を通じて柔かく雅使うことのできる花器である。ただ、ガラス器にも種類がいろいろあり、透明のガラスは夏季にふさわしく、冬季にはさむざむとして感じがよくないというのは事実であって、冬季には不透明の色ガラスの花瓶を使い、夏季には清爽な感じをもつ透明ガラスの花器を使えばよい、というわけである。ガラス器は、窯の高熱で溶解した液を型に吹きこんで形を作る方法、吹竿で吹きながら形を作る方法、型に圧搾して作る大量製品の方法、ガラス器には種々な製法があるらしいが、美術的なガラス器は一品製作で鉄のはさみ箸の類、こてなどを使って原型を仕上げ、その後、装飾のカット(切り子)を加える。陶器と似た工程なのだが、ガラスの性例として硬度が高く成型の後にカット加工をすることのできるのが特徴といえよう。切り子ガラス、カットガラスといい、厚手のガラス容器に加工したクリスタルガラス(水品ガラス)などといわれる美術的な作品もある。江戸時代にはビードロ、ギヤマンなどといわれてたのは、クリスタルガラスの日本訳であろう。さて、ここでは私の手もとにあるガラス器をあつめて、それぞれに調和を考えて瓶花盛花をいけてみた。手のこんだものもあるし、簡単な小品の花もある。皆さんの家庭にあるガラス花瓶から、ウイスキーのあき瓶まで、いろいろ工火して活けてごらんなさい。毎月1回発行桑原専慶流グラジオラスカキッパタの実黒色のガラス瓶に活けた赤いグラジオラス。緑のカキツバタの実(花器の高さ20センチ)編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専渓桑原専慶流家元No. 75 いけばな1969年8月発行

元のページ  ../index.html#89

このブックを見る