テキスト1969
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東本願寺の旬佛さんが御法主のころでした。俳句でも有名な人でしたが、また、各方面にわたつて大変趣味の広い御法主でありました。盆栽がおすきなので、御堂の裏庭に盆栽園を作って盆栽師を勤務させて、幾百鉢もの鉢を棚にならべて、美事なものでした。六条通りのお台所門を入って二丁ばかり行くと、ちょうど御影堂の裏庭になり、そこの一劃に盆栽園がありました。盆栽師は河合蔦蔵さんといつて趣味の深い人で、そのころのそれは盆栽師仲間での名手で、まことに温厚な人格の人でもありました。私はそのころ京都園芸倶楽部に入つていましたので、盆栽師の人達や園芸関係の人達に知人が多かったので、自然、河合氏ともおなじみになり、この本願寺の盆栽園にも幾たびとなく行って、この方面の勉強をしたものでした。なにしろ広い農園のことですから、四季を通じていろいろな花が、ことに日本種の露地に栽培されて、茶花にでも使いたい様な風雅な花が、いっとなく咲いていました。初夏から秋へかけて、白やまぶき、さぎそう、肥後菖蒲、きいちご、てつせん、かものはし、糸すすき、がんび、そけい、女郎花などが美しく咲き、鉢ものの花には、まつりか、支那蘭各種の様に主として東洋の山草野花が多かったのです。つるものの、とう、土用藤、ふうせんかずらなど、珍らしいものでしたが、ここに掲載した絵「かものはし、がんび」の投入れも、そこで栽培の材料です三十年ほど以前に書いた絵ですが、そのころの風雅を伝えている絵として、私には貴重なものです。さて、この絵をごらん下さい。かるかやの様に見えるのは「かものはし」といつて、夏の高山植物ですが、この絵は七月十六日に写生、と記してあり、穂は淡い褐色で、二つに割れて鴨のくちばしの様に合せていますので「鴨のはし」という名があり、珍らしい草花です。あしらいの花はんびといい、七月より八月へかけて咲く野草で、京都の貴船神社奥の... が院のくさむらの中で咲いているのをみかけたことがあります。花器は黒色漆器のぬり手桶で、夏の花器としても清梵な感じがします。黒漆の手桶に新鮮な緑の葉と、朱色のがんびの花は、大変色彩が美しく、夏の茶花としてふさわしい投入れだと思います。さて、漆器の花器ですが、図の様な手桶の漆器、架山手桶(くりやまておけ)の漆器で作ったもの、割りぶたの低い手桶など、花器に作られた漆器をごらんになったことがあるでしよう。栗山桶は日光桶、木曽桶などといい、木のまげものの風雅な形のもので、日光みやげに売つていますが、大変風雅な形の野趣の深い花器です。水桶のことですから夏の花器としてふさわしく、木地のままのものと、漆器仕上げのものとがあります。漆器の花器は水を入れる容器ですから、漆の工程もしつかりしてあるものですが、傷のつきやすい器ですから、いつも常用には使いにくい花器です。時々使う程度にして、水を匝接入れるよりも、中筒を入れ活てけるのがよいわけです。こぎれいな花器ですから軽い草花を入れる程度で、この絵の様に夏の草花の日本種の花を小量入れる程度が、この花器の使い方です。板床にこの花器をしきものを使わずそのまま飾りつけるか、木地のままの(うるしのない)板をしいて、それへのせて飾るとよい調和です。うるしの花器、竹の花器、篭の花器は、いずれも日本情緒の深い花器ですが、花を入れる場合は洋花よりも日本種の軽やかな草花が調和がよいと思います。いけばなの技術をしつかり勉強するためには陶器の花器が使いやすく、自然、陶器を使うことが多くなります。これと反対に、風雅な自然趣味を認ぶ茶道の方面では、篭、竹器、漆器の花器を多く使われる様です。それぞれの用途、趣味に適当な花器を選ぷ、というわけでしよう。このテキストには、篭のいけばなをいろいろ写真にしましたが、さきに述べたように、篭も種類の多いことですから、用い方によってはどんなにでも、使い方が展開する篭の花器ということにもなります。最近、篭花器を売る店が少なくなりました。百貨店でも花器というと、ほとんどが陶器で或はガラス器、。フラスチック製品のものがほとんどです。皆さんの家庭でも篭の花器は少ないと思いますが、少し目をひろげてみると、篭といつても中々範囲が広いということになります。いろいろ使いみちを考えて下さい。(専渓)夏草の花C手桶の投入ればなつるのはしがんぴ12

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