テキスト1969
37/147

太祇の旬に「花活に二寸短かし富貴のとう」というのがある。二寸短かしという言葉には実感があつて、私達花を活けるものには、ことに、その花の姿が思い起されて、その寸法までしめされているのをみると、いよいよ現実感が深い。実際には茶花に「ふきの花」を活けることがあっても、いけばなに使うことは少ないのだが、早春のころ、庭のふきの、褐色の醤が土を割つて出てくる姿は、いかにも春のさきがけの感じがして風雅である。水蕗、八つ頭蕗、秋田白蕗、安羹山蕗など、野生の山の蕗の種類があり、渓流などに野生する鬼蕗など、京都の貴船などに群生しているのがある。ふきの名は富貴に通じ、.早春の自然の花として、福寿草などとともに、昔からめでたい意味をもつ花として珍重されている。「人も馬もつつむばかりの大蕗のしげりのなかにわれは入り居り」という、齋藤茂吉の歌にある様に、秋田地方には時雨の笠に用いられるほどの大きさの蕗のあるのは有名である。春には寸法のみじかい潅木、たけの短かい草花の類で、いけばなの材料に用いるものが多い。おもと、春岡、福寿草、クリスマスローズ、アネモネ、。ハンジー、ヤシンス、野菊、おだまき、その他の草花も多いが、低潅木(かんぽく)小潅木と呼ばれる、薮こうじ、岩かがみ、深山しきみ、たちばなの様に寸法の短かいかんぽく類も多い。これらはいけばなの材料として、なんとなく使っているものでありながら、その自然に育つている姿や、その環模などをふりかえつてみることが、案外、少ないものである。おもとは庭にあるものと普通は考えるのだが、野生に群落をつくつて茂つているおもとの姿、秋、実の色づく頃には野鳥がむらがつて、おもとの実をついばむという。あるいは谷川のほとり、杉ごけの浅みどりの中に一株、一株と立ちならぶ様に群生して咲く春蘭の花、これは清浄な露の中に咲く早春の花である。これは花屋で見る傷のある春蘭の花とは、あまりに格差のある花の美しさをしみじみと感じるものである。薮柑子(こうじ)の赤く小さい実は、紅葉の葉の下につつましくみえ、春も深くなつて狸々袴のにぶい紅色の花、狐のかみそりの朱色、初夏の山の花菖蒲、すいれん、こうほねの黄色。四月のすえには川辺の草藤の紫の花。少したけ長いかんばくには野生のこでまり(宝塚沿線清荒神)花筏(はないかだ)京都大文字山。など、いずれも風雅な環塙の中に、咲く花である。私の家の庭に「クリスマスズ」の花が二月に咲く。20センチ程度の短かい草花だが、雪の降る寒い日でも、緑と褐色の百合の様な花を.12月24.25日ときまつているのだが、咲かせている。クリスマスは現在、その昔は冬至の祭であつて、クリスマスローズの咲く頃に、クリスマスの降誕祭が行われたのだが、花の開花は正直にその季節をまもつている、ということになり、中々面白い。タチヒカゲという草がある。盛花によく使われる短かい緑の草だが、普通のヒカゲカヅラは、山地に自生するつる草で、古来、大嘗祭に冠の装飾として用いられているもので、年々、宮中の新嘗祭には京都加茂附近で採集されるヒカゲノカズラが用いられている。宮人のかづらにすなる日かげ草遠つ神代もかけて忍ばん千蔭さて、私達の盛花に使うタチヒカゲという草は、これと同種なのだが、つるのヒカゲノカヅラとは形もかわつており、一本ずつ立ち姿の根をもつヒカゲである。山陰地方の山地で栽培されている固芸品種らしいが、はつきりしない。なお調べたく思っている。春の草花には短かくて、やさしく美しい花が多い。洋花の中にことにそんな種類のものが多い。特に短い小潅木や草花を、私達のいけばなに・ロー使うことが多いのだが、ただなんとなく季節の花として送り迎えることが多い。短かい淮木や草花にはそれなりの可愛さや、風雅な味わいがあ.. るものである。懸けはなに活ける春蘭の花や、野菊(都忘れ)には小さいなりの美しさがあり、小品花としての深い味わいを宿している。岩梨の淡紅の花の素朴さ、おだまき草の紫の花の中にあるやさしさ、これは賑やかな花にない静かな品格をもつていると思う。小さい姿をもつ花の美しさを、みつめてみよう。そして私達のいけばなの中に、そつとした可憐な花を活けることは、活ける人のしみじみとしたやさしさを感ずることにもなる。パンジーの花の畑に夕風のいた<寒けくひるがへり咲く(潅木)なんてん、雪柳、つつじ、こでまり、沈丁花、やぶこうじ、くの.と様にい う、。低いそ木の質中のに植特物にを小かさんくぼ低い潅木を「小潅木又は低潅木」と名づけられている。(喬木)松、杉、梅、椿、樅、桧の様に、大きい樹木をきようぼくという。また、高木(こうぼく)低木(ていほく)と呼ばれることもある。なお、その中に常緑性のもの、又落葉性のものがある。常緑低木、落葉高木などといわれる。また、つる性の潅木、喬木の種類も多いというわけである。文明... ..... ヒ,短かい潅木と草花かんぽくフリーヂヤタチヒカゲ

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る