テキスト1969
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部ぶ式げ専渓ムラサキシキプとは風雅な名をもった木である。晩秋のころ山地の木陰に小粒のうす紫の実をつける落葉性の低木なのだが、山すその谷あいなどにひつそりと紫の実をみせる姿は、紫式部の名にふさわしい静けさと風雅を感じさせる木である。シキブとは実の重なりという意味なのだが、紫色の実の重なった木というよりも、平安中期の女流文学者紫式部に心を通わせるのが、より詩的に考えられる。京都寺町に應山寺がある。慈慧大師良源(元三大師)の開基の寺で、もと船岡山麓にあったが兵火に会い現在地にうつったといわれる。この寺院の所在地は、もと、平安朝の紫式部の住居の旧跡といわれているのだが、境内に入るとムラサキシキブおり、うす紫の実がみのつて、さびた築地塀を背景にして、まことに静寂な感じである。この寺に桑原専慶流家元の記念碑があり、先日秋季師範挙式の際に皆さんとともにこの寺を訪ずれ、庭のムラサキシキブのやさしい紫に心をうたれたのであった。その後、これを活けてみようと思い、東山の鹿が谷や法然院などを歩きながら、ようやくにして東福寺内の谷川にある臥雲橋の畔で、このムラサキシキブをみつけて、小枝を採集して瓶花に活けた。渋い褐色の変り菊を添えて野趣のある感じに作ったが、なんとなくわびしい感じの晩秋のいけばなである。の2メーター程度の株が植栽されて菰山寺の表門にある右椋である。元三大師ろさん寺と深々と彫つてあり、栢柱のような形の雅致のある門標である。ろさん者の前が秋の名所の梨木神社、その向うに細い小道をへだてて京都御所の築地塀がみえる。秋には黄色いいちょうの築のうず高くつもる静かな道である。.... 瓶花むらさきムラサキシキブという紫の実のなる木,秋も末になり,秋森に色づくこの木を見ると,平安朝の歌人紫式部の名を想いおこす。ムラサキシキブ菊ムラサキ、ンキブ(慮山寺にて)10 紫`

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