テキスト1969
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Rナナカマドの丘を少し歩いて行くと、栗の木の群生している場所があった。すすきと萩が咲いており、その間に栗の低木がまじつて、緑の実は少し黄ばんで点々と実つきのよいものが立ち並んでいる。すすきと萩と栗の実が一_一種ひとところに野生しているのをみると、そのまま瓶花の取合わせの様だな、と思いながら、自然の風雅に心をうたれる。月の夜はさぞ美しいことであろうと思いつつ、栗の枝を少量、頂戴する。この栗は俗に柴栗といつて低い山地に野生する種類で、九月に入ると早くも実をつける。山村の朝に栗拾いをするのもこの柴栗である。さて、いろいろな材料を採集して車のトランクも満員になったらしい。空が少し曇つてきて風が出てきた様子である。さんきらいの実が仝然みあたらない。植物の個性も面白いものである。山によっては全然ないものがある。R R枝つきの栗の実は少し黄ばんだもの、黄みどりのもの、褐色がかったものは外皮が割れて褐色の実をみせている。枝の線の美しくのびているものを3本、はげいとの黄、紅、緑と染めわけたもの2本、白花の山菊をねじめにつけて瓶花に活けた。花器は褐色の長方型花瓶で腰の高い形が変つている。図案の彫刻も簡単にへらで押しつけてあるのもさつばりした意匠である。9月20日の今日、はげいともまだ弱々しく、葉がだらりとして形もよくない。山菊もよくない。折角の栗の枝を活かすことができないのは残念である。とにかく取合わせとして、栗、はげいと、山菊の三稲は趣味としても、色彩、形、季節感ともにいいものである。そのおつもりで類例のよい作品をお作りになつて頂きたい。この瓶花で、栗の足もとに軽く空間を作って、花器の中へ入っているところに注意してほしい。この瓶花の特徴のあるところである。栗の枝は4本入っているが、その傾斜の形と長短の配置は少し調子が変つている。ことに右の下に入れた小枝は、全体に大切なボイントとなつている。左右のバランスをこの小さい枝でおさえているところ、中々大切な役目をしている。8 . R

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