テキスト1969
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四季に咲く花には面白い名のあるものが多い。名前はすばらしくよい名であるのに、実物はそれほどでもないもの、なんとなく由緒のありそうな名前、うまくつけたものだな、と思つもの。オミナェシの様に名をきいてだに楷老をちぎる、などという深刻なのもある。学名、通俗名いろいろあるが、その中に多いのは原産地の土地名を冠花の名いろいろ専渓したもの、例えば人島百合、箱根百合、貴船菊、叡山つつじの様に、この種類のものが随分ある。鳥獣虫魚の名をとったもの、キリンソウ、サルトビイバラ、エノコログサ、カニサボテン、ヒエンソウ、チドリソウ、カラス瓜などこの種類も多い。花の形を名にしたものには、イトススキ、カスミソウ、スズラン、カガリビバナ、ウツギ、オキナグサ、ツバキ(厚葉の木)ヒオオギ、エンコウスギ、こんな名づけ方もある。文学的な名をつけたものもあり、弟切草(オトギリソウ)狸々袴(ショウジョウバカマ)面彩草(オモカゲソウ)専渓画君影草(キミカゲソウ)好文木(コウブンボク)チ安草(コヤスグサ)紫苑(シオソ)の様に、かな甚よりも没字に壽いてこそ実感の出る花の名も多い。花筏(ハナイカダ)は四月の桜の終ったころ、葉の上に小さい白花をのせて咲く姿が、ちょうど花を運ぶ筏の様だというのであろう。フタリシズカという山草がある。能の二人静の名をとつてつけたもの、弟切草(オトギリソウ)は初秋のころ山野に刊生する50センチほどの向さの黄花の草花で、この花について次の様な伝説がある。背、老練な胚匠があったが、自分の既が深似をつけたので、野草のもみ汁をつけたところ、思いのほか早くなおつたので、この草のことを秘して唯れにも話さなかった。弟の某がこの草の名を村人に語ったので、兄の敗匠は激怒して、弟を一刀のもとに切り捨てた。以来、この草を弟切草と名づけて止血薬として用いることになった。これは花に関する有名な話であるが、この様に史話伝説を花の名につけたものが多い。アツモリソウ、クマガイソウ、ハゴロモソウなどもこれと同じ意味の附名である。草の中には滑稽な名前のものもある。例えば、医者いらず(サボテン)食虫蘭(ネペンテス)オニノメッキラギ)気ちがいなすび等、通俗名であるが中々而白い名のものがある。12月より1月へかけて自然に咲くさて、ているものをさがしてみよう。(クリスマスローズ)一月より三月頃まで冬季に咲く草花である。北欧のクリスマスは12片ではなくて、このクリスマスローズの咲く頃だと聞いているが、園芸に栽培され、緑の褐色の百合の様な花が咲き、雪をかぶつて咲くこの花は可憐な感じがする。(元日さくら)桜である。紅色の花が咲き、関西では生駒方面の暖かい地方に咲く園芸品種である。(寒桜、寒ぽけ、寒菊、寒椿、寒牡丹)寒(カン)と名づける花が多い。寒気の中に咲く種類、又は返り花という意であろう。寒椿というのはサザンカの一種で晩咲きの花である。(腫梅)騰月味でローバイと名附けたもの。またその花が蝋細工の様だという意味もあるのであろう。ソシンローバイという種類があり、一ばん正当派のローバイという意味であろう。その他、元日草、歳旦草(さいたんそう)冬至梅、迎春花などと、年末から早春の季節を名であらわした(ヒ花がある。賀正蘭、ついたち草という名もあるが、これは元日草とともに福卦草の別名である。今度は季節を花の名につけ(+二月)に咲く梅という意サッキバイ、八朔栴(ハッサクバイ)10月あざみ、など直接その季節をさしているものもあり、ツユツバキ(サラツバキ)秋サクラ(コスモス)秋悔棠、卯のはな、など季節を冠している花もある。時間をさしているものに、ヒッジグサ(スイレン)アサガオ、ヒルガオ、ユウガオ、マチョイグサ、アサギリソウなどというのがある。コデマリ、オオテマリ、タマアジサイなどは、まるい花の集団を、その形のままに名防けたもの、ヒモサボテンは紐の様な形のサボテン、コウホネ(河骨)はその根が水庭で骨のように見えるという意味。リの様に太腸の光りに花の方向をかえるもの、虫とりなでしこは花茎から粘液を出して昆虫をとるのでこの名がある。竜舌蘭は竜の舌の様に強く大きい形をもつている。以上、思いつくままにとりとめもない話を書いてみた。私は植物の学問には索人であって、誤つて書いていることも多いと思うのだが、日頃、花をみる機会が多いので、花のこんな見方も而白いと息つている。花をいける人達がこのような植物の側面を考えるのも、無駄なことではないと思う。花をみるとき、その花の科学的なみかた、文学的なみかた、いけばなとしての芸術的な考えかたを、あわせて研究すれば有益だと思うのである。ヒマワふようみずひき草ほととぎす12

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