テキスト1969
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吹きなびいてゆれる姿は、いかにもあわれを感じるものである。すすきと取合せて活ける女郎花は、この句の様にひとしを細くやさしく見える。オミナェシ、オトコエシ、フシバカマはよく似た姿の花だが、藤袴は淡い紫の細花が群り、及に咲く夕森草によく似ている。屈初庫太氏の「花の歳時記」によると、藤袴の語義は、フジは花の色の藤色をさし、ハカマは帯びる意味で、佳呑であるために身につけて邪気をはらうという説がある。とあり、いいかえれば衣服につける藤色の花、という意味であろう。七草の中にアサガオが入っているのだが、これは桔梗またはムクゲのことをアサガオと呼ぶ、という説があり、謡曲熊野の詞章に、「これは遠江の国池田の紺の長者のみうちに仕え田す、様(あさがお)と巾す女にて候」という言葉があつて(観世流)これをみると、そのころはムクゲをアサガオといったらしく、また金剛流の謡本には、候」とあつて、中々言菓づかいも複雑である。アサガオは椛だという説もあり、秋草であるから木の椛(ムクゲ)の入ることは不合理とも思をる。またアサガオは桔梗だという説もあり、朝顔ともいう。「朝頻と巾す女にていけばなの七草の中へは、桔梗を入れることとなつているのだが、これは色の調和もよく、九月の花として粘梗を使うことも可能なので、当流ではこれを七芹の一種として糾み入れることになっている。伝統生花の秋の七草は、尼花、萩、女郎花、藤袴、くずの花、なでしこ、粘梗以上の七秤で活けるのだが、投入れや盛花には、同じく七稲で活けるのもよく、またそれを略して五種入れとしても、三種で活けてもよいことになつている。秋平の中へ白菊を加えることもあり、この場合はただ秋草のいけばな、ということになる。葛(くず)の花は、山地のくさむらにかかつて出生するッル草であって、クズカヅラともいう。藤の花に似た赤紫の花で、根を粉末にして葛粉をつくり食用にする。奈良県吉野地方の特産で、同地方の国栖(<ず)の地名からクズの名が始まったといわれている。ナデシコは水辺に多く野生するカワラナデシコのことで、淡紅色のやさしい花だが、これに白花のものもある。このナデシコが「ヤマトナデシコ」といわれ、日本の婦人を象徴する代名詞として使われている。「憮子や堤ともなく草の原」という虚子の句にあるように、七月より九月へかけて、夏草秋草の中に、河辺の砂地に点々と咲きつづく。やさしくも風雅な花である。さて、秋は菊のシーズンである。このごろは一年中、菊を見ない季節がないほど園芸品秤のものが多くなったが、その昔、菊は支那朝鮮よりロ本へ伝わってきたもので、ノジギク、シマカンギクなどが一ばん最初の原種といわれている。現在、日本の野生の菊は約20種といわれているが、園芸品種は三000種にも及ぶといわれ、世界中では数千種に達するとのことである。園芸品種の菊は豊かに美しく、中菊大菊ともにいけばな材料として、必要なものであるが、また単辮の山菊、寒菊、ハマギクの様に清楚で野趣のあるものには、一層の雅趣を感じるものである。野生のシロヤマギク、ヤマシロギク、キプネギク、野菊、イソギクなど、自然の味わいを深々と感じることができる。オトギリソウ、ヂヨウロウホトトギス、マツムシソウ、スズムシソウの様に秋の草花には風雅な名前のものが多い。花の名に鈴虫、松虫というのも楽しい思いがする。富士が嶺の裾野の原をうずめ咲く松虫草をひとめ見て来ぬという若山牧水の歌にあるように、高原地帯に咲く淡紫色の山草で11月に入ると紅菜と実の面白さを活11月中旬になると、冬の花が出はある。鈴虫草は京都の北山、鞍馬、貴船に咲き淡紫色の径一寸ばかりの小さい花をつける。さて、秋の七平を中心に秋草のお話を書いてみたが、いけばなの花材について季節に考えてみると、9月より10月へかけては、山草野草の自然趣味の花を中心に、園芸品種の花をとり合せて活けることが多いし、ける。般かな菊の季節でもある。じめ、菜種、水仙、つばき、寒桜、その他の返りばなが咲く。いよいよ冬へのうつり変りとなる。、(写真)京都府立綜合資料館蔵本,日本経済新佃社発行「光琳」所載・尾形光琳絵ー一冬木小袖一部分11

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