テキスト1969
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秋草の話専秋草とは一般的には秋の草花という意味に考えられている。もちろん秋の草花ではあるが、広くいえば花の咲かない野草の類も秋の草なれば秋草といつて誤りはない。花を活ける私達は秋草というと、まず第一に秋の七草という言葉を思い起す。秋の七草は万葉集にある山上恰良の歌、萩がはな尾花葛花なでしこの花おみなえしまた藤袴あさがおの花有名なこの歌に七草の種類がのベられてあるのだが、それ以後は秋の七草といえば、この歌にある七つの野草をさしていうことになつている。まことにこの七草は、いかにも日本の秋の野草のやさしさと雅趣をよく選択したものと息うのだが、それぞれの形もことなった花でありながら、また七種の花がよく調和する味わいをもつている。9月に入るとさわやかな秋風がたちそめ、秋草が咲きはじめて、やがて菊の秋のそのはじめの季節を泌じさせるものである。月の美しさと秋草のさわやかさは、まことによい調和だが、もつと範囲をひろげて秋の草花を考えてみると、いろいろな種類の花が九月、十月の季節に咲き、私逹のいけばなにも悶かな花のシーズンということができる。... ん水引草、ホトトギス、マツムシソウ、スズムシソウ、ノギク、オトコェシ、リンドウ、クサフジ、ワレモコウ、ヒガンバナ、オトギリソウなど、山草野草の風雅な感じの花が多く、また園芸品種の草花には、ハゲイト、シュウカイドウ、シオン、トリカブト、菊の類、サンギク、ノヂギク、ハマギク、コスモス、ダリア、サルビア、ジンジャ、ジニャ‘。ハン。ハスなど、袢花とともに栽培の花も盟かである。すすきには、山すすき、しますすき、糸すすき、かるかやなどの種類があり、かるかやの1におかるかや(雄)めかるかや(雌)の二種がある。萩はヤマハギとミヤギノハギ(栽植)の二種が代表的である。奈良朝のころ支那から輸入された植物といわれているが、山に野生するハギ赤紫の種類が多く年を経たものはかぼく状となつて、2メーターに及ぶものがある。ミヤギノハギは仙台地方の宮城野の品種が全国にひろがったものといわれているが、奈良朝平安朝の背には、流行の花として貴族の庭幽に多く柏えられたという。承和元年(八三四)には御所の消涼殿において「はぎの髪」という洒炭のあったことが「n本後記」に見えている。狂言に「萩大名」という曲目がある。さる知人の家へ萩を見物に行く物語なのだが、そのうちの一節に、(太良冠者)此辺りは大方、御見物なされましたによって今日はどれへぞ、珍らしい所へお供申たいものでござる私の存じまするには、つうと下京辺によい造り庭をもたせられたお方がござるが、此頃は宮城野の萩がまつ盛りぢやと申しまするによつて、あれへお腰をかけさせられては何とでござる。この言葉にあるように、宮城野の萩は庭柏の花として貨美されたものの様である。現在でも庭園の萩は宮城野が多く、枝振りの柔らかい三、四)の茎が下垂して地面につく様な姿は風雅に芙しいものである。その他、萩の利類には、メドハギ(ホタルハギ)(ヒメハギ)などが野生秤で花は貧弱だが、どこにでも多い野草である。オミナェシは仝国各地の山に自生する花だが、朝鮮、中国にも分布する東洋の花で、薬用にも使われるという。秋草の中でも姿やさしく優婉な秘じの花だが、揺巾「女郎花」の中に「なまめき立てる女郎花」をきいてだに偕老をちぎる」などとあり、或は「むせる粟の如し」ともかかれてある。「露けしやなほひよろひよろと女郎花」芭蕉、の句の様に高原の風に「名は. (写真)狂言「月見座頭」に用いられる舞扇、表面は尾花の絵、裏面は月と尾花が描かれている。(茂山千作氏御所蔵)ぷっ(夫10 •••.. •••••

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