テキスト1968
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冬椿の咲く季節となった。椿の品種は随分多いが、例年四月中旬に開催される京都植物園の椿展に出品されるものを見ても普通五、六百種ほどの花を見ることができる。日本の椿の品名をみると、随分変った名前のものがある。寺の名をつけたもの、例えば妙蓮寺、仏光寺、円城寺、光徳寺、妙喜院、遍照寺と桑原専渓いった様に、それぞれ種類が迩うのだが、また、人名を冠したものの多いのもほかの花にない特徴といえる。道庵、卜半、佗助、吉、それに振つているのは景左衛門、勘解由左衛門などというのもある。(京都園芸倶楽部特輯ー椿ー所戟)椿は寺院で栽培されることが多い関係から特殊な品種に対しそのゴ礼名を冠したもの、またその椿をつくつた人の名をかりて品種の区別をつけたものだろうが、その中に、卜半、佗助、道庵・妙池寺の様にひろく知られているものもある。佗助は利休の下僕に佗助という人があって、それが椿つくりの名手であったので、その佗助の作り出した本因坊、平椿を「佗助」と名づけたという説がある。本因坊という名の椿は、囲碁の本因坊から名づけたものと思われるが、本因坊の宗家(京都市東山仁王門西人、寂光寺)といわれる、寂光寺内にはそんな椿はない。この寂光寺の古い住峨が本因坊で、寺内に本因坊の墓と記念碑がある。|半は大阪府下の浜寺の近くの貝塚に願呆寺という寺があり、この守の古い住職に卜半という人があっ花器て、これが椿づくりの名人で、自分のつくり出した椿を「ぽくはん」と名つけたという説がある。この寺にも卜半の椿はないということだが、只今ではどうであろうか。ただ、附近の人達はこの顧呆寺を卜半の寺と一般の通り名になっている。京都の寺院には椿の名木が多いが、大徳寺、等持院の佗助、宝鏡寺のくまがい、大聖寺のからつばき、金閤寺、衆光院のあけほの、曇華院のからつばき、真珠庵のあけほの、日光などことに有名である。京都東福寺山内の芽陀院の椿垣は有名であるが、Iを人つてすぐ露路に東面した椿の大刈込みは実に見ボである。寺院にある花は、梅、桜、椿、牡丹などその他有名なものが多いが、私どもの流儀の寺、京都應山寺には「むらさきしきぶ」の植込みがある。初冬の頃、淡い紫の実がみのる二、三メーターのかんぼくであるが、その古雅なさびた紫色は、まことにしずかであり風雅である。この寺は「紫式部の邸趾」であって、それに因んで植えられたものであろう。この木は谷間の木蔭に自生する木で、京都では東山の山麓で見かけたこともあり、最近、東福寺臥雲橋の渓流にそうて、一ぱい実をつけた見事なものを見つけた。色づいた頃にもう一度、出かけて見ようと思つている。つば苔毎月1回発行桑原専慶流No. 66 椿(かぐら)白菊紫青色の創作花瓶編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1968年11月発行•••• いけばな

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