テキスト1968
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{つきぐさ睡蓮、こうぽね、蓮、おもだか、陣(うきくさ)など水草の季節となった。すいれんは稽古の花材にも使われる一般的な花であるが、今、使つている睡蓮はほとんど洋種の睡蓮で、紅花白花のものが多いが、紫ばなの大輪咲きのものがことに美しい。この熱帯地方原産の紫花睡蓮は水揚もよく、花期もながく、秋に入つて10月まで咲く珍らしい品種である。日本種の睡蓮は白花のわびしい花だが、なんとなく風雅に野趣の深い味わいの花で、山地の沼沢に静かな趣きで野生の花を咲かせる。「ひつじぐさ」という雅名は、この野生のすいれんの味わいをよくいいあらわしていると思っ。すいれんの花は自然のままでも五日間ほど咲専渓くもので、花の開閉もその程度で終る。これを切り花にすると普通は二日間ほど開花が見られる程度である。ものでないと、まず活けてから一日咲く程度でこれが普通である。くの花が交互に咲いては終り、咲いては終りしているもので、なんとなく見るといつまでも咲きつづける花の様に見えるが、交代に次々と咲く花がそんなに見える訳である。夏の花にはそんな花が多く、蓮、朝顔、むくげ、グラジオラス、キキョウなども次々とかわりの花を咲かせて長期に亙つて美しい。ダリアなどもそれと同意である。みがこれからの花であるか、すでに咲き終った花頭であるかをよくたしかめることが必要である。っぽみを押しひろげてみるとよくわかる。活けるときは水盤にたっぷりと水を入花屋の材料の場合はよほど新鮮な池などで見る睡蓮の美しい花は多すいれんを活けるとき、そのつぼ.. れて、ひらき葉を浮かせる。巻葉が添えてあっても盛花の場合は使わないほうがよい。生花には巻葉が必要である。花くびは水面から五、六センチ程度に低く挿す、水面すれすれのつぼみも風情がある。水揚は花器の中へみようばんを小最投入して、その溶液を吸水させ活力を与える。近頃は河骨(こうぼね)を活けることが少くなった。夏の水草のうちでもことに美しく風情の深いものだが、蓮も同様、花屋で買うことのできない材料で、どうしても自分が池へ行って採集しなければならぬ材料なので活けにくいという理由もある。こうぱねには淡黄の花と赤花とがあって、ほとんどは黄色である、池沼や野川の岸辺などに群つて咲いている姿は全く夏の水辺の情趣である。「河骨の金鈴ふるう流れかな」この旬の通り、丸い金色ともまがう小さい花が流れに動く景趣はやさしくも美しい。近頃ははやらなくなった材料だが、花、茎、葉とも色が美しく、姿も上品に好ましく風雅である。引きしまった形は生花には理想的な材料で、盛花にも好ましい花である。水揚が少し厄介なので一般には活けにくいという原因もあつて、最近のいけばなにはほとんど見られないのだが、黒々とした緑の葉と黄金色の花の対照もよく、深い水盤に葉を水に沈める様にして活ける風情も清冽な感じがして美しい。白いだん竹、しまがやとこうぼねの取合せ、とこうぽねなど、清麗といった感じの花であろう。朝夕に切りとり、葉のしまりのよいものを選択する。また、葉の強くしつかりとしたものを選んで切る。こうぽねは水揚ボンプで水液をさし郭。込むことができるので、水揚薬をつくつておき、その液を株もとより、葉先までくまなく行きわたるように注入する。(河骨水揚液)をつくる材料おおばこ、よもぎ、せきしようみようばん、かんしよう以上の材料をととのえる。おおばこ、よもぎは野生のものを採集、せきしようは庭園などに栽培のものをつかう。みようばん及かんしようは和薬屋で買う。左記の分最にて。よもぎせきしようみようばん以上の混合材料を小鍋一ぱいに入れ、水五合ほど加え、熱湯になるまでたく、濃い緑褐色の液体ができる。それを瓶などに入れ保存(二、三年有効)(0、5)(4)(4)(1)(O、5)かんしよう青楓おおばころっ゜実際に使うときには、その溶液を約二0倍の水にうすめて用いる。河骨の足もとよりこの水揚液を注入する。蓮の水揚薬にもこれを使う夏の水辺の情趣「うきぐさ」。漠字では「葬」と書くのだが、この字にもなんとなくその情趣を感じさせる味わいがある。池や川の淀みに漂つて、水の流れや風のふくままに少しづつ位置を変えて行くのもあわれであるが、一めんの緑に生い茂げる古い池のうきくさを見ると、なんとなく凄みを感じるものである。うき草の茎の長さや山の池虚子倉敷市玉島の善昌寺に桑原専景翁の記念碑がある。二百数十年以前に流儀の人達が先師をしのんで建てられたものだが、その傍らに「汲むあとに流る水やたま祭」里碑という旬碑が立つている。里痺という俳人は花道の門人であるのだが、この「里滓」という雅名は、まことに所を得た味わいがある。村里のうきくさの意であろうが、漂々とした俳人の生活をあらわした深い感じがある。うきくさは盛花の自然の写実的な作品をつくる場合に、水盤に浮かせて用いることがある。いささか古い趣味だが、用い方によっては新鮮な材料になり得ると思. 面・桑原桜子12 ••••• ••.•••••••

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