テキスト1968
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「話の散歩」花のいろいろ近畿放送で四月一日より六日までの放送原稿花の美しさ「花のように美しい」とか「散る花の美しさ」とかよくいわれますが、一体花の美しさというのはどこにあるのでしようか、いろいろ考えてみようと思います。普通「花」といいますと、花のつぽみ、満開に咲いた花のことをいいますが、よく考えてみますと勿論、その散りぎわにも美しさがあります。また、すでにその花の咲く季節をすぎて、枯れた花くびを、茎に残している姿にも、うらぷれの自然の美しさを感じるものであります。未だ花の咲かない、これから花を咲かせようとする堅いつぼみの姿にも、未来の美しさが想像されまして、こ桑原隆吉れにも花の美しさを感じるものであの中にある美しさということが出来ります。ると思つのであります。ますが、一番それを感じますのは、すべての植物のもつ「うるおい」であろうと思います。まつかなバラの花、紫色のかきつばたの花、その花の新鮮な色彩の美しさは、ただ色が美しいというだけではなくて、その中に水分をたつぶりとふくんだ「うるおい」というものがあるからであります。この花や葉のうるおいが、花の色をかがやかせ、葉の緑のしたたるようなみずみずしさを見せることになります。花のもつ光り、光沢も、このうるおいが、そう見せることになる訳でありますし、花が枯れ(四月一日)たり、切花のしおれるのも水分、つまりうるおいがなくなることであります。少し範囲をひろげて考えてみますと、樹々の若芽、若葉、みどりしたたる新緑も美しいし、秋の紅葉、それに枯れ葉の頃にも魅力を感じるものであります。木の実、草の実の面白さを眺めて歌や詩が作られることにもなります。こう考えてみますと「花」という言葉は咲く花だけをさすのではなくて、すべての自然や植物の美しさを指す言葉だと思えるのであります。雨にうたれる花、風にそよぐ水草の姿、霧の中に見えかくれする花の美しさなど、新鮮な花は実に美しいものであり自然の景色やなぎ(四月二日)「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」という歌の通り、柳はしなやかにやさしく春の風景を美しく引き立てるものであります。また柳は女の人にたとえられて、柳腰とか柳の眉とかいわれますし、土地の名前にしても東京の柳橋、九州の柳川、京都には柳馬場など、全国的に柳の名をつけた地名も随分多いと思います。銀座の柳など明治時代から有名ですが、現在の洋風建築の立ち並ぶ銀座通りの柳は、案外街の姿に調和して、柔かいふんいきをみせていると思います。一口に柳といつても随分種類がありますが、私達が日頃見なれているのは、川端などにある枝垂れ柳のたぐい。又立ち姿の柳の中に猫柳の種類が沢山あります。ますと、猫柳、ねずみ柳、いぬこり柳、きつね柳など動物の名をつけた呼び名の多いのも特徴といえましよう。又、雲竜柳、蛇柳というのもあります。京都北山の芹生の谷川に、アマゴ柳というのが自生しています。これは芹生だけにある品種やしいですが、所柄魚のアマゴとはうまくつけた名だと思います。猫柳とねずみ柳などその形からつけ.. ほた名前でありますが、花屋の店先で猫とネズミの柳が仲よく並んでいるのも面白い風景といえます。ところで白い花の咲く雪柳は柳仲間ではなくてバラ科に属するかんくであります。俗にコゴメ柳といつて庭や農園で栽培され、野生のものは京都の保津川など渓流の岸辺の岩の間に、白い花を咲かせています。シダレ柳の原産地は中国大陸の中部地帯だそうですが、中央アジャのアフガニスタンでは、並木として到る所に植えられていて、古い昔、中国から中央アジャヘの通商の道であったシルクロードに伝つてひろがつていったのだろうということであります。あまり川など少ないように思える中央アジャの柳並木ときますと、なんとなく珍らしい感じをうけると思います。つばき名前をあげてみ日本の代表的な花としては桜、梅が第一にあげられますが、或は菊、つばきも古い昔から歴史と共に伝つて来た代表的な花といえましよう。つばきは日本が原産地でありまし(せりを)て、北は青森から南は九州沖縄まで山野に自生している木でありますが、現在では野生の種類とそれを園芸によって作りかえられた、いわゆる園芸品種を加えますと一千種にも及ぶといわれております。つばきは(四月三日)の.. アメリカでも、ヨーロツ。ハでも盛んに栽培されて、今ではバラ、百合などと共に世界の多くの国々で作られている世界的な花でもあります。つばきを漢字で書きますと、一般に木扁に春という字を書きますが、これは日本で作られた国の字、いわゆる国字でありますが、本当は漢字では「山茶」と書くのが正しいという説もあります。つばきは春の始めから四月頃の春たける頃まで咲く花でありますから、木扁に春という字を合せて即ち、椿の字を作ったものだといいますが、中々面白い説だと思います。つばきという発音は厚い葉の木、あつばの木からツバキという言葉が生れたとも云われますし、又、葉につやがあるので、つや葉の木というのをつめて、ツバキとなったものだという説もありますが、いずれも自然の姿を古いみやび言葉でいいはじめたのが、その名の起りと考えられるのであります。つばきは花首が思いがけなく落ちるので縁起の悪い花だなどと、よくいわれますが、昔からつばきは千年の生命のある長寿の木で、最もめでたい木だと伝えられています。中国の「荘子」という書物に「大椿八千歳」つまり、大きい椿の木は八千年の齢があると書かれていますし、謡曲の「鉄輪(かなわ)」の文章の一8 .... .... ~c..-、チ•••• 怜

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