テキスト1968
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か苔つばた桜がおわると若葉青葉の季節である。かきつばた、花菖蒲、すいれん、ふといなど、水辺の草花が咲きはじめ、この季節からいけばなにも、すつかり趣きをかえて、初夏の感じの花材を活けることになるQまことに、今年もかきつばたの咲く季節となったのだが、池畔に群る緑の葉の中に咲くしずかな紫の花、野川のあぜにそうて咲くかきつばたの風情は、いかにも日本の野趣のある色彩といえる。農村の裏庭に流れる流れ川のかきつばたは一層、水郷の情趣を深くする。伝統の生花の中でも、かきつばたは、花菖蒲とならんで「葉ぐみもの」の代表的な花といえる。桑原専慶の.. 生花には、「葉組み七種」といつて、ばらん、すいせん、かきつばた、はなしようぶ、いちはつ、ぎほうし、しおんなど、七種の葉組みものの活け方を規定しているのだが、この七種の花はそれぞれ季節的にもことなり、出生の状態も違うので、生花としての活け方扱い方がそれぞれ変つている。と書き、雅名で貌佳草(かおよぐさ)とも書かれ、万葉集の七に、「貌佳草、衣に摺りつけ」云々の言葉も見える。かきつばたとはなしようぶは、よく似かよった花だが、かきつばたは紫花、白花のものが殆どで、稀には紫白の絞りの花もある。これに対してはなしようぶは、皆さんもご承知の様に多種多様の花が咲き、園芸品種かきつばたは漢字で杜若、燕子花の変り花が数多く見られる。植物屈ではアヤメ科、洋名では、すべてアイリスの種類である。さて、杜若の生花についてお話してみよう。この号で杜若の生花を四つ掲載したが、花型は季節、花器などによって復雑な活け方がある訳だが、ここでは基礎的な考え方をお話してみることにする。伝統の生花では花型と技法など、すでに流儀として定つていることを習い、その規定通りの形に活けることになるのだが、然しよく考えて見ると型の通り活け、約束の通り活けるということは、そこに作者の考え方や。自然の花材の個性をも無視して‘―つの型にあてはめて作る、いわゆる型もののいけばなになってしまう。真実の生花には伝統の型や技法の上に、自然草木のもつそのままの形、うるおい、感情を織り込むことを教えているのだが、杜若の生花の場合は、ことに技法がこみ入っており、約束が複雑であるだけに、ともすれば、その技法約束を覚えることだけに終始して、肝心の自然の情趣、味わいから離れることになりやすく、出来上った作品は、型には忠実だがいかにも萎縮したル花になることが多い。技法約束は伝統生花のすべてではなくて、のびのびとした作者の心をのべ、自然の姿を想像し得るような自由さが、その中にあることが、伝統生花の一ばん大切な考え方である。これまで、たびたびお話していることなのだが、杜若の生花を活ける際に、ことにこの考え方が必要になって来る。葉組みの約束を正しく守り、さてその作品は、のびやかな自然性のあるかきつばたこそ、よき杜若の生花といえる訳である。すべて伝統芸術は古い伝承の型だと思われやすいのだが、これはその本当のこころを知らない解釈で、ことに生花の場合は、材料が自然の草木であるだけに、常に新鮮な考え方、応用のひろい考え方が必要とされる訳である。生花には「自然出生の性格を考えること」「自然描写を考えること」について、生花の形や技法を通しての独特な考え方をもつている。これは、盛花瓶花の自由主義ではないが、その考え方そのものに伝統的な考え方もあり、またその考え方の中に優れた点、梢極的な而もある。いずれにしても、この伝統のいけばなの中に、日本的な香りや味わいのあることは事実であり、生花を腎う人達は、生花の約束と自然草木の個性について、正しい理解をもつことが大切である。活ける上での注意いろいろを記して見る。かきつばたは三月より咲き五月下旬に終る。栽培の品種は早く咲き終り、自然咲きのものは五月末まで咲きつづける。四季咲きの種類は、七月頃に咲き、秋に入って十月より十一月すえまで咲く。三月の初花は、花葉も短かく花茎も太く、葉陰に低くしづかに咲くのでその状景を写して、生花にも小品の姿の中に初花の心を見せる。生花にはこの初花の姿、四月より五月へかけての盛季の形、晩春に咲く杜若の乱れの姿、この様に初季、盛季、終りの季節によって。花の高低の置き方、花数、葉組みの組み方、葉組みの数などを定めておるのだが、いずれの場合にも生花の花型の中に季節感を出す様に活ける。初めの杜若は葉も柔らかく、葉色も浅みどりに若々しく、生花にもた4 盛花・杜若ガーベラ

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