テキスト1968
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•4月16①日より日まで京都には椿が多い。私の永年住みなれた東福寺にも幾種類となく咲く。大木から可愛いい小木もあり、大して椿を知らぬ私でも、いつしか輿味をもつようになつてしまった。家の庭にも何時の頃かは、東福寺の塔頭の庭園であったのであろう名残りの椿が五種ほど健在である。東福寺の山内で一番に目につく椿は、龍眠庵の銘椿、有楽(うらく)の大樹であろう。また芽陀院(ふんだいん)には珍らしい椿垣がある。特に門から庭口に通じる路の右側に、丈高く刈込まれた椿垣は、これから入ろうとする名園への期待を一層高める。東福寺に限らず、大きな禅寺の塔頭の土塀の向うに見えかくれする椿は、全く品のある美しさである。家の庭の椿も花が多く、咲く頃は子供達の桑原隆吉ぇ.陰吉よい遊び相手になつてくれている。幼い従姉妹共が、花輪作りや店屋さんごつこの欠かせぬ材料であり、秋には実は実で突拍子もない利用方法があるらしい。万葉の昔から歌に詠まれ、陶器の絵、着物の柄、塗物の模様に使われ、いけばなの材料としても四季を通じて、いろいろの場合に使われるよき花材である。だがその椿について知つているつもりが、いざ聞かれて見ると私自身全くあやふやなものなので、知つている事を整理してみよう。「椿」を日本で「ツバキ」という、中国での「椿」は「チヤンチン」の事であり、チャンチンは「せんだん」に属する落棠喬木で高さ20米に達する。日本のツバキは中国では「山茶」と書く、故に「山茶花」と書いてサザンカと読むのは誤りを生じやすいのでよくない。山茶花は元来ツバキの事でサザンカではなかったのである。サザンカはツバキ属ではあるがツバキとは別種である。ツバキは学名「カメリヤジヤポニカ」といい、ヤブツバキ等日本のツバキを原種としている。ツバキの仲間に属するツバキ料には、ー、ツバキ属ツバキ(ヤブツバキ等)サザンカチャ2、シャラ属ーナッツバキ3、サカキ属4、ヒサカキ属5、モッコク属があり、ツバキ科でもツバキ属はみな、東アジア、南アジアに成育したものでヨーロツ。ハやアメリカには自生しない。世界の人達がツバキすなわちカメリアジャポニカを観賞しているのは、日本産のツバキとサザン力を母体として中国生れのトウツバキ、ホンコンツバキ、サルネンシス、油茶などが交配されて出来たものなのである。日本のツバキは大別して二つの系統がある。北海道以南の海岸線ぞいに広く自生するヤプツバキと北陸等日本海側の多雪地帯のユキツバキとがある。ャプツバキはヤマツバキとも言われ常緑の喬木である。六弁ヤブツバキ、長葉ヤブツバキ、白花又は八重ヤブツバキがあり、野生で多くの変種を生じている事は園芸上で異品種を作るのに適しているという。卜伴(ぽくはん)明石潟(あかしがた)熊谷(くまがや)白牡丹他、多数種類がある。子房に毛がなく花糸の中程迄ひつついて筒状となっている。枝には毛がなく葉柄のふちにも毛がない。花は主として春にやや筒状にひらき花びらの幅はひろい。ユキツバキは潮風には弱いが、自生地では雪に圧されて地を複うようにして生育し、枝は粘り強くてボキポキ折れるような事はなく、地をはうように生えた枝からは発根しやすく、挿し木ですぐ繁殖する。雄しべの筒は黄色で若葉のとき、葉柄の哀側の主脈にそつて粗毛を生じるので、園芸品種として作られたユキツバキ系のものを判別する事で出来る。乙女椿(おとめつばき)荒獅子(あらじし)御所車(ごしよぐるま)玉牡丹(たまぼたん)紅乙女(べにほたん)等がそれである。野生のうちに変種があらわれ大輪花、重(せんよ)咲、又極小輪の三糎位の変つたものもあり、ヤブツバキと交生する地帯には両者が自然交配し、八重咲のものが多い。サザンカはツバキに似て非常に近い種類である。天然のサザンカは白花で、花径は三ー七糎、平らに開花し花糸は基部でのみひつつき、花びらは一枚ずつ散る。晩秋から初冬、さらに暖い地方では冬の間も咲き続けて花期は長い。サザンカ系の品稲として油茶、カンツバキ、ハルサザンカ、トウツバキ等がある。油茶はオオサザンカとも言われ、園芸品種として「田毎の月」がある。カンツバキは冬季のツバキの意でサザンカに近く、八重咲、千「立ち寒椿」と一般的に言われている。紅雀(べにつばき)があり、京都の霊鑑寺にある「千重佗介」(せんよわびすけ)と呼ばれる大木もこの系統であろう。ハルサザンカは二、三月頃に咲き、三糎余りの半筒状の花で、花形もツバキとサザンカの中間形で、大和錦、京錦、鎌倉絞り等があり、サザンカとチャの交配種であろうという。トウツバキは中国原産のツバキでナンキンツバキなどと呼ばれ、一見ツバキ(日本のツバキ)と似るが葉が厚く、花にはガクにも毛がある。次号に佗介以下ナッツバキ(シャラ)等の説明とツバキの各種の咲いた花形、色の別け方等からのツバキの分類をしてみよう。参考の為に京都の有名な椿を列挙しておく。大徳寺総見院の佗介と方丈の日光(じつこう)月光(がつこう)鹿ケ谷法然院の散椿(ちりつばき)紙屋川地蔵院の散椿修学院林丘寺の白佗介(しろわびすけ)東福寺龍眠庵の有楽大樹(うらく)高台寺月真院の有楽、金閣寺の佗介。唐椿(からつばき)は兵庫県川西市の多田神社にあり、実南椿(うんなんつばき)とも言う。・毎朝7時30分より(5分間).題花のいろいろ(語の散歩)ラジオ放送(近畿)桑原隆吉3 つば言

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