テキスト1967
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ーー'いけばな辞典より—|松竹梅とならべて、お祝いの花だと思うのは、私達の殆どの常識の様になつている。松竹梅を慶祝の花と定めて習慣となつていることについては、勿論、それ相当の理由がある。例えば5月の母の日(マザーデイ)に、母への感謝の心をこめて、赤いカーネーションと贈りものをする習慣は、遠く古代ギリシャで母を尊敬する習慣から始まり、アメリカで盛んになり、最近、日本でも一年のうちでの重要な記念日となつている。これはキリスト教の習慣であるが、日本の松竹梅を慶祝の花と定めているのは、東洋的な思想から出発しているところに特徴がある。松と竹と梅とは寒によくたえる植物であるために歳寒の三友といつて、古来、中国で尊ばれ、これを日本にとり入れて慶事に用いることとなった。またこの三種の植物は日本の風土によく、建築とともに調和のよい風景をつくつているのだが、また昔は松は江戸、竹は京都、梅は大阪を象徴する、郷土の花ともいわれておつたのである。まつ、たけ、うめ条を祝儀の第一として、昔より尊ばれるのは、わが国の風景に関係の深いのは勿論だが、千年の緑をたたえると称して、長寿の樹であること、厳冬の季節にも色を変えぬ、その節操を人の意思にたとえて、常にかわらぬものの象徴として、これを諒敬しているのである。桑原専慶の古書「立花時勢粧」の巻の一に、「松の一色は祝儀第一の花にして、四季ともに立つるといえど、菊漸くおはるより紅梅やA咲く頃までこそ松の一式は面白けれ。されば神無月時雨にそめぬ松とはいえど、かつは葉も黄ばみ霜にいたみ雪にうづもれていづるは、山もあらわに峰もさびしき頃なるべし。いでや此ころの人の春のすえより、秋のなかばまで、かわらぬ色の松一木、瓶にあつめて一色となす。」云々以上の様に、花道においても古来、松の掴花を最も重要なものとして尊敬した。竹は東洋の特産であって、日本、中国をはじめ、熱帯地方に至るまで各種の竹が野生しており、或は栽培されたものをあわせて、その種類はおよそ一五0種もあり、恐らく原始時代より生活の必需品として使用されて来たものであろう。竹は松と同じ様に春夏秋冬の季節を越えて、四時不変の緑の葉と、風雪によくたえて生長が早く、年ごとに新しい代を重ねることは、人世にたとえて、その性質は柔軟でありすなおであり、直にして強く、しかも清楚であるという、これを例えて私達の理想の姿として象徴したものであろう。古来、「呉竹」くれたけ「漢竹」かわたけを宮中においても愛好されたのも、この様なめでたさによるものであろう。竹のいけばなは、昔よりその上より下まで、よく見える様に活けることが教えられている°桑原の伝書に「竹は古来上より下まで能見ゆる様に立るを専にすといえど、花形によりて、胴、前置にてかくるる事有。竹を見せんとて花形のあしきは、却て竹の宜翫にあらずとあり、「竹之字形象作之。本草綱目云゜竹葉心三有。枝必両有其根喜東南行。不剛不柔°非草非木」とも記されている。梅は中国の原産である。桜が春の盛りをあらわす花であるとしたら、梅は春の来たのを知らせる花であろぅ°凛然たる寒気をおかして、くまだ氷雪のとけやらぬ山野に、ほつほつと咲き始める梅花は、その色と香に古来、人の賞して止まぬ趣がある°殊にその姿形の雅趣のあることは、日本人の風雅を愛する心と謡和するものがある。「時勢粧」に「梅は木つき風流に、枝ぶりはたらき有をよしとす。絵師の云。桜は花を描き梅は木を描く。又いわく松に三景有、梅に八景有。又詩にも疎影横斜とあれば此心を以て。瓶上に其姿をうつすべき也」云々。古来、梅はおくゆかしい芳香があっておごらず、その清節の風格を尊んで賞美したものである。祝花の代表選手である「松竹梅」について書いて見た。さて、この頃の私達の感覚としては、その植物に芽出度い意味のあるという、古い伝説習慣はすでに過去のものとして、あまり重要に考えない様になった。そのくせクリスマスには樅の木を立てるという習慣が新しい流行の様になつてはいるが、要は、いずれの場合もあまり深くこだわらない方がよいと思っ。ただ、木、縁起のよくない草木については知つておいた方が、万事安全ということである。いわゆる木は次の様なものであるから、ここに列記しておく。春早むくげ八つでにわとこはぜの木あせびばしよう特に祝意のある草「忌み花」といわれる草くちなしきよう竹桃こぶしかいどうすおおしきみさかき彼岸花鳥かぶと山吹葡萄木蓮紅葉次にこの頃(一月ー三月)の季節のいけばな材料の花言葉をしらべてみた。外国の習慣によるものだが参考のために記しておく。アカシャ(優美)カトレア(麗美)アイリス(好意)黄水仙(求愛)ユリ(新鮮純潔)菊(赤)(求愛)ウメ(誠実)ク(白)(誠実)エリカ(春の喜)ク(紅)(愛情)オモト(不変)ゴム(永久の幸)サクラ(精神美)バラ(満開婚約)サンシュ(成功)(晉求愛)桧ク専渓り縁起をかつがない人でも、ソデツ(不老)ローバイ(仁慈)ボケ(実質的)カユウ(清浄喜)アスパラカス(不変)赤)信愛カククー(ネーション(白)愛情(桃)熱愛ストレチア(天国)シ。フリ。ヘデューム(変り易い友情)(赤)愛情白)失意(不死鳥)新年の花、結婚式の花など、あま気になるものである。窮屈に考えない程度で、なるべく祝意のある花を選ぷのがよいと思っ。はすかうぽねぎぽうしてつせんあざみがまひおおぎけしりんどうやはり藤沈丁花チフクュエ(ニーリッックスプ梨紫陽花10

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