テキスト1966
60/75

いけばなの写真を作るのは随分むづかしいものである。これまで私の作品を写したのは、永い年月のことであるから、おそらく万をもつて数えるほど、多くのいけばなを撮影しているだろう。勿論、私は花を作り写真は専門家がとるのだが、実際にいけばなの写真専渓活けたいけばなと、出来上った写真とが同じ感じのものであることは、先ず、殆んどないといつてよいほどむづかしい。私達のいけばなは、表面の形だけではなくて、作品を構成しているものは、形の他に、色調とうるおいという特殊な状態がある。私逹が花を活けて、これはいい花だと思うのは外形だけではなくて、必ずそのとき同時に花のもつ新鮮なうるおい、みずみずしさ、花や葉や樹幹、果実などの色彩に美しさを感じているのである。ことに花や葉のもつ光沢、これも私逹の心をとらえているに違いない。ところが、写真、ことに白黒写真の場合はこれを十分にあらわすことが出来ない。例えば、ここに掲載した「さんきらい、白菊」の瓶花の場合でも、花器の色は渋い朱色(熟柿の色)であつて、この花器の色によつてこそ、さんきらいの実、菊の白と緑が美しい色彩を構成しているのに、白黒写真ではその価値を半減してしまう。結局は、カラー写真でなければ、いけばなの真実の姿を伝えることが出来ないということになるわけである。さて、最近、印刷技術がすばらしく進歩して、以上の私の嘆きなどは所詮は、下廻りの編集者の泣ぎごとともいえる訳で、つまり金をかければよいものが作れる結構な時代になつている。カラ—テレビの普及しょうとしている時代。単色写真などはすでに時代おくれということになるかも知れない。七月と八月とNHKのカラーテレビで、私の花を2回とつてもらった。(8月9日放送、でに8月に放送されたものには、花は出なかったが、「いけばな」が主題になつているので、十分みてもらうことが出来るのではないかと息つている。大体、私のいけばなは、どの種類の作品でも、形と同時に色彩に重点を樅いておるので、カラー印刷やカラーテレビの場合は、十分な効果があるものと自信をもつている。それだけに、材料の選択や作品の中の色の配問などについては、かなり神経を使うのだが、さて出来'ェったものはどうであろうか。9月20日と23日に放送の作品は、京都東山の東福寺書院で、私の立花を作る情景が写されているが、とにかく、雑誌やテレビの作品は、限られた短い時間の中で、綱集者の目的に制約され、注文をつけられ、しかも絶体、よい作品でなければならないのだから、よほど蓄積された考えと、技術が要るものである。古い形式の作品であつても、形や色調には現在に通う新鮮さが必要だと思う。9月20日放送)す9月20日のものは瓶花さんきらい単弁白菊花器陶器暗朱色8

元のページ  ../index.html#60

このブックを見る