テキスト1966
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l ' 蓮の花はなんとなく宗教じみて、古くさい様に思えるが、花や花軸の形を見つめると、ほかの花にない新鮮な形をもつていることに気づく。花や軸の色も中々美しい。これを洋種の葉ものなどと取合せると、意外に面白い花が出来るものである。すすきの尾花の漸く出かかったものを4本、これは葉をとり去つて、蓮の軸の柔い曲線と、すすきの軸の直線を組み合せて、明るい感じに仕上げようとした。残花のあじさいを尾花はすの花あじさい3本添えて、たっぷりとした緑の葉とともに、全体がしずかな落若いた色調の盛花である。花器は褐色のやきしめの陶器。みずぎわをすかせて、茎の見える様に作ったのも、つとめて、明るい新鮮さを出そうと考えたからである。この程度の花型を立体(りったい)という。基本型からは全然ぬけ出した自由な形である。この盛花は8月24日に活けた花で、晩夏の感じの深い作品といえる。あじさいは淡い水色と、少し浅緑の花を交えて3本。蓮かほり暁冷ゆる麻ごろも丈蘭A ABけいとうはさびた黄色に少し紅を交えて、葉はあざやかな緑、くるめけいとうという水揚のよい品種である。白ききようの短い残花数本。濃緑のシャガの葉、少してり葉のナッハゼのさびた枝振りのもの。この4種を大振りの腰高水盤に活けたが、鶏頭夏はぜききようしやがB 藍絵の染附鉢に美しい色の花材が配合されて、たっぷりとして、日本画に見るような品格と、染織にある様な美しさを見せている。花器の図案はてつせんの花で、これも盛花の配合の中に組み合せて考えてある。単色の写真ではどうにも仕方がないが、色彩的に優れた盛花である。鶏頭に妻は水汲むはだしかな虚子6 晩夏8月のすえ,夏の花もすでに落莫として,面やつれた姿が見える。あまり十日の頃にもなると,漸く初秋,柴栗の実も人きくなり,尾花,鶏頭などの花材も新鮮な光と色を見せてくる。やがて紫苑も咲き出す。下旬より9月のはじめにかけては,夏の花の名残と秋の初花をとり合せて活けることが多い。’’

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