テキスト1966
51/75

盛花は水盤に花留具を使って活ける花、瓶花は壺又は籠に丁字留を使つて活ける花、これが普通の考え方であります。ところが最近は花器に新しい形のものが択山つくられる様になり、水盤と壺との中間ともいえる様な花器が多く、盛花器は段々と腰の高い花器が作られる様になり、ロ径が段々と狭くなり、また反対に瓶花用の花器と考えられるものは、これまでの「壺」や「籠」のほかに、鉢様式のもの、口の広い腰高のいわゆる「広口瓶」ともいうべき形のものが次第に増して来ました。考えてみると水盤は瓶花器の領域に進入し、瓶花器は盛花器の領域に進入し、この二つの形式がまん中において、「広口瓶」様式にまとまった様なことになりつつあります。勿論、これまでの壺形のものはそのままに、水盤は水盤としてそのままにあるのだが、その中間的の形のものが、現代的な感じに.私達の眼にうつるのも事実です。私達が盛花と瓶化を区別して、活け方の技法をかえて、練習するのは、主としてこの花器の区別によってでありました。壺と水盤とは全然別のものだという先入惑によって、また、花器の形がこの頃の様に自由に複雑に、まじりあうことのない時代に、考えつかれた、活け方の区別であったともいえます。しかし、この頃の様に花器が入り交つてくると、盛花3 盛花瓶花とその特長瓶花の区別をすることすらも意味のないこととなり、これを―つにまとめて「瓶花」ーびんかーと呼ぶのが正しいとも考えられるし、実際に習うにあたつても便利であるかもしれません。花」と「瓶花」との二つにわけて区別しているのは、その練習の課程にそれぞれ違った技法があり、盛花は盛花、瓶花は瓶花として習得するのが理解しやすく、二つの技法の勉強のために便利でもあるという考えのもとに、出発点を二つにわけ、盛花は盛花として稽古をはじめ、瓶花は瓶花として稽古をすることとしている次第でありますc従って、この二つの活け方が進歩するにつれて、盛花瓶花の区別がなくなり、花器の自由な用い方とあわせて、「瓶花」と―つに呼ぶ様になって行きます。具を使って活ける花型だが、その特長は、花型が豊かにたっぷりと、賑やかに入れることが多いのです。水面をひろやかに見せて、水と水ぎわの花葉枝の接点の技巧の美しい様に特に注意します。花留具は剣山以外の、たとえば七宝(しっぽう)の様に穴のある花留具を使って、木片や草片を「たてぜん」につめて留めることもあります。水盤はふとい、かぎつばた、すいれんの様に水草の花しかし、桑原専慶流では、なお「盛水盤又は広口の花器に、剣山花留盛花(もりばな)すc従つて籠の花は瓶花といつても材には引き立つ花器でもあります。水盤の口径てはいに花材を入れる場合もあり、また反対に水面を多く見る様に、花材を花器の一隅に軽く入れる様な活け方もよく、水盤は元来、水を見る花器ですから、その特質を考えて花型の大きさと、水面の見せ方をいろいろ工夫する訳です。水に浮く花葉、また時として水中に花葉を沈ませて、清爽な感じを作り出すなど特殊な活け方もできます。この様に水盤でないとあらわしにくい感じや、活け方がある訳です。瓶花は主として壺、叉は籠に入れる花です。別に投入花(なげいれ)という言葉もありますが、これは籠に入れる花のことを特に名づけま投入れといつてもよい、ということになります。瓶花の花器は形の種類が多く、複雑ですが、主として口のっぽまった壺形の花器、又は対。ヘージの絵にある様に狭く上部でひらく形、又は上まで直線状の箇形の花器。この様なものが基本的なものといえましょう。こんな花器には瓶花としての一ばん正しい技法を以つて活けることになります。足もとに「丁字留」をかけて留めるのが、最も多い留め方で、その他これに類する留め方の工夫が沢山あ45瓶花(ぴんか)ります。瓶花の留め方については、項目を別にしてお話しますが、特殊な工夫や技法が多く、習う人達が一ばん難しいと思うのは、この瓶花の留め方であります。盛花は剣山に挿して留めればよい訳で、比較的簡単ですが、瓶花の花形を作るには、まず、この留め方の技法がしつかりしておることが肝心なのです。瓶花は瓶花として独立して勉強せねばならないことは、この留め方にもかなり重点があります。さて、瓶花と盛花と比較して違うところを考えて見ましよう。瓶花は総体的に淡白に、軽やかに、清楚であり、落着のある上品さ、或いはつばきの一輪挿の様な軽妙な味わい。老松に大輪菊の様な材料を壺に入れた強く力のこもった瓶花°細ロの花瓶にすすき、秋海棠の様に軽やかな渋い趣味の花。洋バラの色を交えた一種挿の様に明る<単純な味わい。この様にさつばりとして美しく、清爽な感じ、純粋な感じ、そんな味わいが瓶花のよいところです。賑かであるよりも気品高く、清雅な境地を楽しむのが瓶花のもち味といえましよう。これに比較して盛花は、たっぷりとした美しさ、技巧的な美しさ、意匠的な美しさ、その様なところに差違があります。盛花は明治以後に始まった近代的ないけばなであり、瓶花は教百年以前から行なわれた伝統の花であって、わが国に伝統したのみでなく、中国古来のいけ花でもあります。従つて、昔から正しい床飾の花としては瓶花を活けることとなっており、盛花は新しい飾花としては用いられますが、伝統的な正しい床飾には用いないのが、しきたりとなっています。勿論、これは花器花材とも日本趣味の配合による瓶花の場合であって、明るい現代風の瓶花はもっと自由な考え方をもつてよい訳であります。さて、以上は基本的な考え方でありますが、これまでのこのテキストに掲載の写真のうち、瓶花が数多くのつておりますが、見返えしてみると、花材も花器も新しい感じのものが殆んどであり、花型も明るい現代様式のものが多いのに気がつきまい。これは作者(専渓)が、今日のいけばなとして、一ばん進歩的な作品を作ろうとしていること、また材料も今日的な新しい感じの花を用ておること、そんな意慾が多分にありますために、古風な花器や花材をっとめてさけておる関係によります。静かな古風な趣味の座敷には、それにふさわしい落着のある花材と活け方をすることが大切であり、明るい現代的な装飾のある部屋には、新しい感じの花を入れることが必要であることは当然であります。7

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る