テキスト1966
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よその世界のことをとやかく気にやむのも失礼とは思うけれど、いつも気になるのは柱がかりの松である。能では一の松、二の松、三の松といつて能の中の重要な目楔になる松なのだが、新鮮な松の立てられてあることが少ない。私達から見ると、とりかえたらどんなにすがすがしく見えるだろうと思う程度が多く、中には火のつきそうな枯れ葉の松で、羽衣などが演能されているのを見ると、どうにも気になって仕方がない。能の終るごとに水につける様にすれば、案外簡単なのにとも思うのだが、舞台をみがく心があっても、そこまでは注意が向けられないのかも知れない。鉢植の松を置いてあるところもあるが、これも屋外へ出すことがないらしく気息奄々たるものが多い。何事にもあれ、自分のやっていることにはよく気のつくものだが、少し垣根を出ると、案外気づかぬことが多いものである。お茶やお花でもその通りに違いない。自分のことに一生けんめいになつて打込んでいると、ひろく社会的にみて、欠けている点が随分あるに違いない。第三者が見ると案外よく気づくものである。私達は常識を豊かにして、ひろく社会をみるべきだと思う。能楽堂の松ドイツアザミイチハッ洋種のイチハツは花も大ぎく、色の変ったものが多い°洋花らしい惑じがあるが、要するにアイリスの種類である。アヤメ科の洋種のものはすべてアイリス3日本種のアヤメ、カキツバタ、イチハッ、ハナショウブはすべてアヤメ科に属する。写真の花は、イチハッのうす紫、アザミの紅の花器は仁松作青磁花瓶゜古風な趣味の花器である。この花器には、生花のおもと、かきつばた、水仙などを活けると品格のよいいけばなとなると思う。アリアムとあざみを盛花に活けて見たが、花器の品位に負けた惑じである。ぽたん一種、大輪菊一種、つばき一種、などよい調和であろう。このアリアムあざみ二種盛花で、花器は赤褐色の花瓶である。真副胴のイチハッと、中間のイチハツの二つの間にすきまを作っておいて、そこヘアザミを3本入れた。白黒写真ではわかりにくいが、あざやかな色彩の美しい花である。アザミは前より後方へかけて、ずつと深く並べて入れ奥行をとつている。イチハツの葉は自然の組みのまま入れ、あしらいの葉を1枚ずつ添える。頃であれば笹百合一種、花慈蒲一種などがよかろうと思う。日本趣味の品のよい花材が調和するに違いない。写真をとる日、適当な材料のないままにとりあえず活けた花だが、この材料なれば普通の水盤に活けた方がよかった、と反省している。花型は悪くないのに、なんとなくしつくりとしない―つの例としてのせておく。4 2 2

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