テキスト1966
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し、0盛花瓶花が現代のいけ花として発展するまでには、かなりの永い年月を経ている。大正初期から始ったこのいけ花が自然趣味の活け方をすることにおいては、そのはじめも今日の盛花瓶花も変りはない訳であるが、大正より昭和初期の頃の考え方や作品の形式と、今日のそれとは大変な差違があり、約50年にわたる経過は、同じ名の盛花瓶花であっても、材料の変化とその取材の仕方、配合。形の作り方についての新しい研究。美術的な深い色調。その技法の発展。花器の新しい選択などによって、現代の代表的ないけ花として、完全な内容をつくりあげた。これが今日、盛花瓶花の極点とも見える―つの峯である。いけ花はさらに次の高峰に向つて歩みを開始した。これが新しい花道の造形的研究といえる。先号において現代のいけ花について五つの項目に分けて説明をはじめたので、今回はその③④について解説する。組み合せて活ける瓶花盛花いけ花は自然草木を(なまの植物、枯花枯葉ぽくものなどを含めて)材料とするものだ、という考え方はどこまでもその通りで誤りはないが、今日の作品はこの境地から更に発展して、いけ花の美しさをつくる上に、これまでにない新しい技法を加え、或は植物以外の材料を加えて、その配合物をいけ花の形式によって、別の感覚のあるいけ花的な作品をつくることに着眼したのである。まず、普通の植物にない色を染色によって得ようとした。まつ黒のあじさいの花、しだの葉、の様に、作品の効果を出すために染色の技法を加えて、更に美しさを得ることを考え、珍らしい効果をあらわすことの工夫をいろいろ試みる様になった。これは花道における―つの発見であつて、美術的な用意と、いけ花としての品位をしつかりと考えた作品は、その始めの目的をたしかにあらわすことのできる、中々面白い着想であるのに、やがて、これは一種の流行的な性質をもつて花道界にひろ3 自然花と植物以外の材料をがり、うすつぺらな染色作品が展覧会などに見られる様になり、俗悪ないけ花に早くも成り下ったのは残念なことである。要は、染色しながらと染色見えない程の技術と、色彩についての深い知識をもつこと、これが大切な条件といえる。とにかく、下品な染色のいけ花は見るのも嫌゜御免をこおむりたい。さて、(植物と植物でない材料を組み合せて作る盛花瓶花)というのはどんなものであるのか、これについてお話して見よう。まず、作品写真を見て下さい。テキスト35号(8。ヘージ)の写真を参考にしてお話する。花器赤褐色の陶器花材きじのはねばらあじさい造花さんきらいこの作品は完全な瓶花である°材料は植物以外の羽毛や造花が入っているが、花瓶に入っていること、その形などそつくりのいけ花であるが、材料に植物以外の材料を加えている。四季の花も多いのになぜこんな変った材料を使わねばならないのだろうか、と疑問をおこす人もあるだろう。さきにお話した様に、私達はあらゆる植物材料を使って、優れたいけ花を作るが、更に植物で得ることのできない色や惑じをも、私達のいけ花の中にとり入れ様とする。例えばこの作品は羽毛の淡い褐色の感覚、まつ黒に染色した精巧な造花。それヘ渋い紅色の自然咲のバラ(なまの植物)の4種の材料があつまつて瓶花をつくり上げている。写真を見てその色調をよく考えると理解の行くことと思うが、この変った瓶花は、色彩的な嫌味もなく、あくどさも感じられず、むしろ静かな落着さえも感じるではないか。(この作品はNHKテレビ放送の画面に出たもので、初級向きの作品で、花形はやや堅い対照型)つまり、この瓶花は植物以外の材料を使っていけ花的なスタイルを作ったもので、ここに―つの新しい境地があり、研究の方向を示している訳である。要は、美しいものを作るために積極的に材料を選択し、配合の変化をみせた作品ということができる。しかも「瓶花の形式による」というところに―つのすじみちが通つている、ーーと思うのである。会場の大作、会館のロビー、商店内の装飾いけばなの場合は、普通のいけ花と違つて、華々しく力強い感じの花であることが望ましいから、この様な普通のいけ花でないテクニックが必要ということにもなる。花の中に羽毛を加えるという様なことは、普通の状態ではなく、いけ花の上に更に意匠を加える「意匠花」の部類に属する。意匠は作者の心が、サンキライの朱色の実。こあらわされるものであり、美術的な考案を作品を通して発表するものであるから、この種類の作品を作る場合には、作者にしつかりとした信念が必要であることは、いうまでもなつて作る、新しい造形作品いけ花は花器を用いることが常識となっている。これが普通なのだが、もっとひろく考えて、いけ花が装飾物であるという考え方からすると、必ずしも花器を使わねば作ることができないということもない。植物の中の変化のある形のものを組み合せて‘―つの珍らしい形の作品をつくるー~ということもあるわけで、(テキスト36号7。ヘージ)にある作品の様に、木や草花などを組み合せて、装飾的な作品をつくることを考えついたのも、今日の葉道の新しい形式といえる。この作品の材料は(木のぽく)(ハスの実)(オンシジュームーー洋岡の花)(カラジューム)以上の4種の古木、果実、花葉によって―つの形を構成している。いずれも植物の材料のみを集めて作った造形である。花器を用いてないが、特殊な形を作り出しており、装飾物として使うことのできる作品である。4 花器を用いず、植物材料によ桑原専渓R さくら8今日のいけ花

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