テキスト1965
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朝顔又は牽牛花と書く。洋名はモーニンググロリー。ヒルガオ科の種であって花色品種の多いことは皆さんご承知の通りです。夏の朝と朝顔は切つても切れぬ仲、季節の風物詩といえましよう。陽のまだ上らぬ早朝に起きて、庭の朝顔の、今日はどの花が咲いたかとながめる気持は全く、夏ならではの情趣です。朝顔を「シノノメグサ」と、古い言葉でいいますが、その感じをよくあらわした雅言です。アサガオは中国原産の花で、日本では全国的に栽培されますが、温暖の地方のものには種子がつきやすく、寒冷地方のものは種を採ることが難かしいということです。夏の朝に自慢の朝顔の花を持ちよって陳列する朝顔の会。昔はこれを「あさがおあわせ」といつて風雅な趣味ですが、今は「朝顔展L「朝顔コンクール」ということになって言葉も段々、現実的になって来ました。「歌合せ」「香合せ」などというのどかな言葉もあったのですが、とにかく「なんとか合せ」などという言葉は、風雅にやさしい言い方だと思います。さて、朝顔のいけ花についてお話しましよう。朝顔は皆さんご承知の通り、非常に大衆的な花でありながら、これがいけ花ということになると、なんだか難しいように思われます。考えてみると先ず第一に、朝顔を自分の庭で栽培しなければ活けられないことです。農村や町の郊外に住む人には至って簡単ですが、市内に住む人達にはでぎにくい場合もあります。しかし、わずかな土地、鉢づくりでも咲く朝顔ですから夏のいけ花のために来年度には是非、栽培される様におすすめいたします。朝顔のいけ方活けやすいのは鉢づくりのものよりも、庭の土にじか植えにした朝顔の方がよろしい。長く自由に切ることができるし、形も自然らしさがあつて花器によく調和します。朝、花器の中で美しい花を咲かせる様に工夫するわけですが、それには前日の夕刻に明朝咲きそうな(つぽみ)を見定めて、適当の長さに切り、足もとを食塩でもみ、塩をつけたまま(かけ花生)に活けます。この場合、茎はぶらぶらして花の形も葉の形も見苦しいのですが、長さと分量を考えて、花形のことはあまり気にしないで挿します。早朝、このかけ花の朝顔は花器の中で美しい花をひらかせています。きのうの夕、あんなに悪い姿であった花と葉が一夜のうちによく水揚げて、花と葉と蔓は上方へ頭を上げて自然のままの姿になって整然としたいけ花になっています。花はばっちりと紫や紅の花が大きくひらいて目もさめる美しさです。これは庭で見る朝顔よりも更に更に美しい花を見ることができます。以上の様に活け方も水揚も簡単ですが、必ず夕刻に活けることが大切です。そしてっぽみを花器の中で咲かせる様にします。鉢づくりの茎のしつかりしたものは早朝、すでに咲いたものを切りとつて活けることができますが、朝顔のいけ花の趣味は、花器の中で姿をととのえて花を咲かせるところにあるのですから、庭から切りとるやり方をおすすめします。朝顔は水揚のよい花材で、活けた茎は二三日は大丈夫。一輪咲いてその次の日にも堅いっぽみが開花します°鉢植の朝顔は半日で終りですが、活け花の朝顔は午後に入ってもそのまま咲いています。野原に咲くひるがおはやさしい姿ひるがお、むくげの花です。これも都会地では殆んど見られませんが、少し郊外の草むらに咲く小さいひるがおの花は、風雅な野趣の深い花といえましよう。ひるがおはその名の如く、終日、陽ざかりの中に咲きつづけますが、くさむらからつる草をたぐりとつて、まるくからめて持つて帰ります。茎を適当に整理して、形のよいものを選んで、これも翌日に咲きそうなっぽみを見定めて、かけ花、置き花の竹の筒や細口の陶器にさしておきます。翌朝になって花器の中で形をととのえて、可愛いい薄紅の花を咲かせます。これも水揚のよい花ですが、足もとを食塩でもんでそのまま活けます。むくげには、白い花、紫がかった紅、白花に底紅のある花、八重咲の大輪で「祇園守」ー—ギオンマモリという名の白と紫紅の花。以上一ーの種類が普通にみられます。七月上旬から九月へかけて、雅趣のあるすがすがしい花を、毎日毎日さきつづける花です。権(ムクゲ)は樺花一日とか権花一朝とかいつて、朝顔と同じ様に夏の朝を飾る花といえましよう。権と書いてアサガオと読んだ昔もありましたが、いけ花には朝顔と同じ様に夕刻又は早朝に切つて小品花に活けます。これも庭から切って活ける花で、遠方から運ぶ花ではありません。2 あさがお

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