テキスト1965
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いけ花に使う花器にはいろいろな種類のものがあるが、その中で一ばん多く使われるのは、壷、水盤、鉢の類、皿の形をしたものなど、この系統のものが多い。それが陶磁器で作られ、金属その他いろいろな製品があるわけだが、現在、私達が使っているものを考えてみると、ほとんどが陶器ということになる。さて、壷といい水盤といい、近頃はそれに類するものが非常に多くなり、実に複雑多様になって来たが、そもそも壼という言葉を考えてみると、いわゆる壺形のっぽ、形がまるくてふくらみがあり、口のつぽまった容器。これが壺の語源となった形であろう。茶壺のっぽ、あれが基本的な壺の形に違いない。「っぽ」という言葉は、その他いろいろに用いられておる様だが、要するに「<ぽみ」のある深い穴の様なものをさす場合もあり、或はその場所をさした言葉でもある。また、中世時代には宮殿の中の間や、中庭の平地などを「つぼ」と呼ばれた様である。「壺焼」という貝のたべものの壺の意味。地面に穴を掘つて柱を立てることを「壺掘り」ということから考専渓えても、「っぽむ」「っぽめる」という言葉からも、深い穴の様ないれもの、或はいれものを作ることをさしており、花器の壺もこれから始まった言葉であることが想像される。ところが、花器としての壺は近頃、形も多種多様になり、いわゆる壺形でない容器も一般的に「っぽ」といわれている場合が多い。原則的にいえば、口のせまい下部のまる<ひろがりのある器を壺といえば誤りはないのだが、それならばそれ以外の形の陶器について、一応の区別と名前をはつぎりしておくのが、常識的にもよいことだと思うのである。鉢(はち)というのは、例えば茶碗の格好をした上ひろがりのあまり深くない容器°食器に多い形、あれが鉢である。鉢は本来はインドの食器である°僧が施しを受けるために持つ容器で「托鉢」ーーたくはつーー_の言葉のあるのもこれがためである。従つて食器の形が鉢であって、その形が食器以外の用途に使われる様になり、「はち」という言葉が段々と広い意味をもつ様になった。例えば「植木鉢」の様に、或は美術陶器の中にもこの鉢の形を模して、いろいろな芸術的に立派なものが作られている。いけ花の花器として、鉢様式のものが随分多い。「はち」という名をつけないにしても、上ひろがりの花器が近頃は殊に多い。新しい様式の花器には「逆三角型」の上方へひろがった形の陶器の類を盛んに使う様になった°私達はこんな新しい感じの花器を「はち」とはいわないのが普通である。「はち」の様式から出発した形ではあるが、これは壺ではな<鉢でもなく、これという固有名詞が定つておらない様である。私達はこんな花瓶を使う場合、「新しい形の花瓶」「漏斗状の花瓶」とか「広口瓶」とかいうより方法がない。最近においては陶芸作家の方でも、次々と新しい形のものが作られて、それらの作品にはその作家のイメージを盛り込んだ、新しい作品名がつけられることになっておる様である。しかし、どんな変った形であろうとも花器である以上は、単に「花瓶」とか「花器」とかの大ざつ。はな名称で済むらしいし、のあるものは「提瓶」扁平な形のものは「扁壺」その他「四面壺L「六面壺」「長方壺」「面取壺」など古典的な形式から来た名も附されている様である。また、陶器の釉薬その他の特殊な技法から附名されたものもある。最近には陶芸作家が自分の作品に対して、例えば「光彩」「雲表」といった様な文学的な名をつけたり、「紅」「口の小さい壺」といった様にその作品の形や色調を直接に説明する様な名をつけられる場合もあって、丁度、展覧会に出品される絵の題名の様になって来たのも新しい形式といえる。さて、私達に必要なことは、そんな作家の文学的な名ではなくて、直接にその花器に対する呼び名であるのだが、「壺」,鉢」「水盤」「皿」の様な具体的な呼び名の他に、それ以外の新しい、しかも多皿阜に出廻つている花器に対して、固有名詞が定つておらないことは、まことに不便を感じる訳である。陶芸家の方で定つておらない以上は、花道家の方で定めたらよい訳なのだが、まず淵斗状の花瓶には「広口瓶」ー|ひろくちびんーーとでも名付けるのが一ばん解りやすくて、よいのではないかと思っている。これは使う場合が大変多いので一層その必要を惑じている次第また中には手である。水盤というのは、陶磁器又は金属器で作られた浅い器のことである。盤という意味は浅い平らな板状の容器のことで、将棋盤、碁盤の言葉にある様に平らな感じをあらわす言葉で、水盤は「水を盛る器」と解釈してもよい。いけ花、盆栽、盆娯などの場合に平らな容器を使って、それに作品をつくるのだが、夏期には水を盛る心で浅い容器に清水を入れて、清涼の装飾効果を考えるのも、水盤の本当の心に添うことにもなる。さらにその容器に花を挿しそえて、水を主に考える様な活け方も適切な方法であろう。最近は水盤の形も段々と変つて来て、深い水盤形式のものが多いのだが、その本当の意味を考えて、殊に夏季には水の多く見える様な活け方をすることが望ましい。最近、花器という観念から飛躍した造形的な陶器がふえてきたが、その様なものは別として、普通の花器に対してははつきりとした考え方を、きめておきたいものだ。鉢と壺5

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