テキスト1965
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2 びわの実はオレンジ色に色づぎ,7月なかばの今一日ではすでに終り方であろう。白キキョウをあしらつて盛花を作つたが,なんとなく野趣があつて中々よい調和である。びわの葉の少ないものを選び,実もまばらな枝を選んだが,出来上つてみると,なんとなく風雅な惑じがして中々面白い花となつた。花器の褐色に対して花材の色調が落ついて,いわゆる,のりのよい花といえる。花型は左勝手の留主型で,左方に直立の真,左へゆるい曲線の副の枝,その下の前方へ出た胴の枝,右へ長く花器より垂れる様な横の直線の留,これは前斜にのびのびとした流れる様な枝,中間の白キキョウは,前方へ傾くもの,中央へ立つもの,その右方の空間へ長くつき出したもの,この3本が副材である。びわの実のつき方がそれぞれ違つていることにも注意してあるo枝の太さやそれぞれの形にも変化のあるものをとりあわせたが,前方の垂れ下つたびわの葉,後方深く入れた枝葉(控)によつて花型の深みを作つている。アカバンサスは青く紫がかつた花。花屋にくる品種の中には早咲きのものとおそ咲きのものがある。これほ7月中旬の終りの花で重弁の大輪咲の品種である。アマリリス,クンシランなどと同じ様に百合科の洋花だが,この頃,山の谷間に咲く,(キツネノカミソリ)というオレンジ色の花も,これと同じく,アマリリスの種類である。私達が花を選ぶ場合,名前は同じアカバンサスであつても品質のよいもの悪いものがある。スイレンにしても洋種のスイレン,その中に品質がいろいろあり,また山の池に咲く純粋の日本種もある。品質を知り,よい材料を選択することが大切である。この盛花にはアカバンサスにシャガの葉を添えた。アカバンサスの葉よりもシャガの葉の方が清爽とした感じがあり,形ものびのびとしている。真とその後方に2本のアカバンサス,また中間に1本入れた。シャガの葉を真,副,胴,控と入れ,スイレンは中間と留の位置へ高低をつけて挿した。アカバンサスは茎を高く明るい個性をみせて,スイレンは低く水面に葉を浮かせて剣山をかくす様に並ベ,自然らしい姿に入れてある。アカバンサスは高くスイレンは低くして,その対照を考えてある。1 ぴわ白キキヨウ2 アカバンサススイレンこの花器は備前焼であるo備前焼というとまず古風な伝統的な形しか考えられないのに,これは中々しまりのあるモダンな感じの花器で備前焼とは思えない。この花器は西川清翠という京都の陶芸家が岡山伊部にうつり住んで,作つた陶器でつまり京都の感覚と岡山の土との合作の花器という訳である。水色のガラス器,ガラス器としては濫和なデザインだが,この程度のものだと,どの花にもよく調和して活けやすい。この花器はFさんからの頂きものなのだが,贈りものの花器は使う人の好みがあつて,選択のむづかしいものである。

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