テキスト1964
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し、0<晩秋の色が濃くなって来る。木々の紅葉も、黄ばんだ草の葉までもさらさらとぬけ落ちる様に、しぐれにぬれた土を色どる。秋の陽に寒ざくらの花が咲き、その紅葉をみるうちは、暖かい陽ざしに心ものどかであるが、菊も少くなり、庭のさざんかが冷雨にぬれる様になると、ひとしおわびしさを感じる様になる。11月も終りの頃となるとようや初冬へのうつり変りの季節なのだが、いけ花には実に変化の多い楽しい季節なのである。葉のまばらに少くなった菊、山菊の葉の紅葉、スイセン、ツバキなど冬の花が咲きはじめて、けい古日ごとに活ける花も、静かな感じの趣味の深い材料を使うことの出来るのも、この季節である。葉の落ち去った木ものに、菊やつばき、スイセンの様な新鮮な緑をそえると風雅な味わいの中に、ひぎしまりのあるいけ花を作ることが出来る。いよいよ冬が来る。私達のいけばなにも新しい季節を作りたいものである。七日は立冬。色づぎはじめた紅葉もやがては色あせ、野の花も山の実も、冬へと衣がえして行く月である。こうした季節のうつりかわりをいけ花にももりあげることを心がけた紅葉を活けるのもその―つで、マンサク、ナ、カマド、ナンテンの枝に一輪の白菊をそえるのもよい。もう一輪、黄菊を加えれば色彩はより華やかさを増すであろう。紅葉した落は葉ちるのも早いから、これから色づく枝を選ぶべきである。花ものではツバキの早咲がある。白、赤、ビンクなど気品の高い花だが、一種ざしが花の美しさをさらに引立てる。いけるときは葉をはぶいて枝の線を出すことが大切で、カゴに生けた一輪のツバキの花は、枝振りの面白さとマッチして床の間の品位をより高めるであろう。この月の終りに近づけばサザンカもよい。実ものではツルウメモドキ、カリン、サンキライなどいろいろあるが、実ものはその重量感をいに、そえる草花は単純な色と形のものがふさわしく、小ギクなど風情をさらに加える。十一月も半ばをすぎると紅葉はいよいよ色さえてくるが、ことにキク今月のいけ花(11月4日・朝日新聞)桑原専渓かすための紅葉は風雅があり、寒ギクはその美しさをひとしお引立てる。スイセンの早咲きも初冬の訪れを知らせるものである。花器は信楽や丹波、志野など、どこか暖かいはだ合いのものが、冬を迎えるものの心を豊かにしてくれる。こうした自然趣味のいけ花に対して、私は洋花を使った現代調の十一月の花をいけてみた。写真の作品はストレチア、ナナカマド、ユーカリの三種の盛花である。花器は茶褐色の陶器で、落着いた形の中にも新しい感じの花器である。ストレチアを2本、中央に高くさして、その前方へ重ねるように、ナナカマドの枝をゆったりとした形に入れ、下部の左右にも枝を張り出させて、全体をひろやかな花型に作り上げた。中央にユーカリをさして、この盛花のひきしまりをつけたのだが、この作品はたとえば、澄み切った秋空に見るようなすがすがしさ、そんな思いを心においていけた盛花である。ストレチアはオレンヂ色にコバルトを加えた面白い形の花で、極楽鳥化ともいわれている。ナナカマドはまつ赤な実がたわわに群つて秋日の情緒。ューカリは白緑の葉。この三種の花材の形、色彩によって、明るい秋の情趣をつくり出していると思う。いけばな初冬の花ー毎月1回発行桑原専慶流編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1964年11月発行No. 25

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