テキスト1964
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随筆私の家の中庭に蕗の葉が一面にひろがって、緑の大きい葉がおもとや菊の若葉を、おおいかくす様にかぶさっている。最初は二株三株だったのがいつの間にか根茎をのばして、庭石の下をくぐって向う側から若芽を出し、四方竹の根と競う様におしひろがって行く。二月頃、ようやく春りしい陽ざしが見える様になると、権やつつじの若芽と殆ど同じ頃に、庭の砂をくぐって赤く褐色の「ふきのとう」が出桑原専渓ているのに気つく。私の庭て一ばんに春を知らせて呉れるのは、ごの蕗の若芽てある。庭の「ふきのとう」の出はじめる頃になると、私の春の仕事が忙しくなり、青白い茎から緑のわびしい花が咲き、やがてまるい若葉がひろがり二尺ほどの大きさに広がるま.て、庭の景色どころでない忙しさがつづくつつじの花が咲き落ち、二、三株しかないバラの花が終る頃になると、漸く庭をながめる暇も出来、花鋏を持って、のびすぎた権の枝を切り、咲き終ったすみれの花を刈りとる。私の庭に押しあって茂っているのは「秋田ぶき」である。秋田ぶきは秋田県に多い蕗て、広辞苑をひらいてみると、「秋田に産するふき、非常に大きく、葉のまわり三メートルに達し葉柄の高さニメートル.茎は砂糖漬にし、葉は陰干として襖、屏風にはる。葉柄に心榛を入れて雅致あるステッキを作る。」と記してある。秋田地方の子供が、雨の日に蕗を雨傘のかわりにかざしている写頁を見たこしがあるが、随分、大きくひろがって出来るものらしい。大分以前のことてあったが、秋田のお嬢さん達を三人、私の家へお泊めしたことがあった。深いおつきあいてもなかったのだが、女学生達の文通しやらで交際が始まり、京都見学のお宿をして差し上げたのだったが、そのとき、私が頼ん.て秋田のふきを根ごと送ってもらった。六尺ばかりの長さの蕗の茎の太い本場もの和見たのだが.全く見事なもので、それを私の庭に早速、植えて育っているのが、今の「秋田ぶき」である。いわば本場真系のもので毛並の一ばん良いものと思っている。しかし、これ4王地が変ったせいか、その翌年にはあまり大きい葉も出ず、やっと二尺ばかりの葉をひろげて、先輩のふきの葉の中に雑居している。先輩のふきと云うのは、そのずっと以前に、宝塚線の山本附近の農園てこれもお土産にもりったものと、今―つは、京都の庭から頂いたもの、いづれも貰いものばかりが集っ.ている混成移住者の群である。その他、岡山県の奥地から持って帰ったおもと、清滝川のあわもり草、貴船のがんび、これも貰ったクリスマスローズなど、毎年、勝手に芽を出し、いつとはなくその季節の花を咲かせている。京都の稲荷山の近くに高島屋百貨店の飯田家のお邸がある。大分、以前のことて先代、飯田新七氏か健在された頃、西本願寺よりの御依頼で、私がその頃、ずっと引きつづいてお花を活けておったことがあった。新七氏は立花がおすきで、いつも立花を床の間に活け、花瓶も私か古書を参考として形を考え、金工家に作らせておったが、丁度、五、六月頃になるし、裏庭の契屋の茶室に、この「秋田ぶき」を活けて床飾りにしたものである。茶室と云っても十畳二間つづきの広々とした座敷て、花頭窓のある書院の床に、五0センチばかりの高さのたっぷりとした銀の花瓶。蛙の彫刻のある胴張りのある花瓶に、「秋田ぶき」を三本、一メーター位のものを高く活けて飾りつけるのを、毎年の例の様にしたことがあった。庭の隅の秋田ぶきの群りの中から言なのを切りって、寸法を定め、足もとを熱湯て夷いて、花瓶の中へ突き立てたが、銀器の落着いた光沢と、ふきのみづみづしい緑の葉が調和して、豪壮な落着と云った感じ.て、全くよいお花だった。ぁr]とり大きく葉がのびない。年々歳⑥ 阪急宝塚線の池田から三つばがり宝塚寄りの駅に山本‘J云うのかある。植木の本場て、庭園の樹木から盆栽用の鉢もの、温室植物の洋蘭類、バラの根付もの栽培など.あらゆる園芸植物の本場である。私はいけばな材料をさがしピ行くのだが植木畑ー(漏室のつづく道を歩き廻って、材料をさかし出すのも中々楽しいものである。その「春香圏」し云う農場て一ふき」の根を貰って持って帰ったのだが、やかて、大きくひろがった緑の葉を、あの銀器の様な花瓶に入れて、私の家にもあの豪壮ないけばなを活けよう'c‘野心を起したものに違いない。その後、私の家の「秋田ふき」は々、株を張り葉が群って出来るのだが、一牧の葉はせいぜい五0センチ程度。雄大な感覚は全然ないく、私の家、相応の大きさしかのびないのかと、とにかく、銀の花瓶は当分お預けと云うこととなっている。「華道京展」のいけばな展が例年、四月、五月の頃に開催される。ごの花展に一秋田ふき」のいけ花を二回ほど出品した。いけ花に似私の家のふきが丁度、手頃の大きさなので、五牧ばかり花瓶に入れて、根じめをつけると全くよい作品となる。根もとを焚いて一晩おき、そのまま会場で活けるのだが、みづみづしb全秋田ぶき瓶花・秋田ふきはなばしよお

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