テキスト1964
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四季の草木は随分、種類が多い。植物学的に考えればこれは大変な難じいこととなるが、私達が日頃、いサばなに使う材料を考えて見ても、全くおびただしい数にのぼる。花を習いながら材料の名を覚えることは大切なことなのだが、中々、寛えにくいと云うのが普通てある。植物の名は中々、復雑なものてあって、その呼び名も学問的につけられた名、その主属名、分類された固有名、また学名でなくてもその地方に依って異る通俗名などもあって、全く難しいものである。そこで、私達が花道を勉強する場合に必要なことを、重点的に話して見よう。先つ、現在の状態から考えて見よう。皆さんも御承知の通り現在は漢字が制限されている。当用漢字は凡そ―二00字、教育漢字は凡そ八七0字であって、その中には植物名の梅、松、桜などの様に一般的なものは使用することとなっており、その他、植物名で漢字を使ってよいとされているものが相当多数にある。勿論、これ等の漢字は草木そのものをさして使う場合と、それ以外の、例えば人名地名に用いる場合などがあ専渓る。さて、植物の名を字で書く場合、現在の学校教育ては、日本植物はひらがな、洋種植物はカタカナ、と定`っておる様てある。それなれば漢字の梅、松、桜、竹、檜、桐の様に一般的に多く用いられるー当用漢字の制限内にある植物名は使ってもよいのか、悪いのかと云うこととなると、そこに中々複雑な解釈があって国語審議会など.て問題になっている様てある。ここで書棚から植物図鑑を選び出して、ひらいて見る。大正二年一月出版の故牧野富太郎氏の「増訂草木図説」全四冊゜この本は飯沼欲斉翁の原著を基本として牧野先生が補足増訂されたもので、掲載された植物名は全部カタカナが用いられている。例えば、オモダヵ(沢潟)、ヒマワリ(向日葵)ジラソ(白及)ソバ(蕎麦)ベソケイソウ(景天)ジュウカイドウ(秋海棠)の様にカタカナに漢字を添えてあるが、この漢字は中国文字をそのまま用いてあり、現代では実に難解なものが多い。その中て以上に並べたのは、現在の私達ても比較的、読み易いものをぬき出したのだが、ソバ.ジュウカイドウなどの漢字は、私達には慣用語としてわかり易い範囲のものである。それはさておき、この様にこの時代には学用語として、植物名はすべてカタカナを用いられておったの.てある。次に、昭和五年九月平凡社発行、ー辻氷氏著ー「万花図鑑」八冊この図鑑は洋画家の辻永氏が絵画の研究書として、日本の花、外国の花を写生、原色版で数千種を記録されたものである。牧野氏の「草木図説」は日本に実在する、日本の草花を記録したものであるが、辻永氏の「万花図鑑」は、日本花と洋花を四季に分類して画かれている。この本の目的は絵画の写生のための参考書てあるが、植物の品種、植生の場所、季節などについても詳細に記録されている優れた著作である。この辻永氏の「万花図鑑」にある花名は、日本花、洋花にかかわらす、すべてひらがなで照介されており、例えばてんどろひゅーむかとれあえりかうあがんすほうさいらん以上の様に洋花もひらがな、日本花もひらがなで照介されている。今日から見ると随分おかしいと思う点があるが、これてひろく社会に通っていたその頃を考えるための、―つの例証になると思っ。さて、第三に昭和三十三年一月保育社発行ーー北村四郎氏、岡本省吾氏共著ーー「原色日本樹木図鑑」をひらいて見る。この本は日本に現存する自然樹、植生樹、外国種の樹木さざんかのあらゆる品種を原色版に写真して記録解説された貴重な文献であるが、この本を見るとそれぞれ品種名所属名その他の固有名詞は、ひらがな、カタカナを交えて記述されてある。これは複雑な編集整理のために見易い様に、理解しやすい様に主として編集上の目的のために、ひらなが、カタカナの使用法を考えられてある。以上、三種の本をひらいて、その著作の時代や、その目的のために植物名を漢字で書き、ひらがな、カタカナを使って理解し易い様な、いろいろな方法を用いてあることが諒解される。また、以上は日本の文字の使い方について、殊にその中においても一ばん復雑な植物文字の使い方について、全く、各種の方法がとらひめばしょおれておること、また、一率統制の難においすみれしいことが理解されるであろう。そこで、今度は私達の身近かな問ぶつさうげ題—ー「いけばな材料の文字の使い方について」これに話題をうつしてみよう。さきに述べた様に、現在の学校教育ては、日本植物はひらがな、外国種の植物はカタカナと定っている。また、当用漢字にある松、杉、桜の様な(その他にもある)漢字は当然、植物名としても用いてよいこととなっている。さて、私達が花適に用いる花の名は、日本花はひらがな、洋花の場合はすべてカタカナを用いることがよいと考えている。これは一ばん解りやすい方法であり、また使用の上にいろいろの便利がある。カタカナの花は洋花、ひらがなの花は日本花との区別が一目瞭然とするからである。ところが、松、杉、檜、桜、椿などの様な平易な一般的と思われる漢字は、どこまで使ったらよいのだろう。勿論、当用漢字の制限内でと云うワクがあるが、実際、私達の様に日頃、花を活け花の名を口にするものにとっては、当用漢字.ては到底、間にあわない場合、当用漢字では意をつくし得ない場合が起って来る。つまり、花道として用いねばならない様な漢字をどうするかについて、考えて見よう。一ばん解り易く実例を挙げて見よう。(前月号のテキストから)木もの、信濃柿(しなのがき)元日桜春蘭紅梅(ごうばい)定家かづら(ていかかづら)以上に並べたのは一例に過ぎないが、代表的な意味で考えて見よう。「木もの」は樹木類の意味で、いけばなを習う人には直ぐ解る字だが、「きもの」ではその言葉のもつ術語の意味が通じない。「しなのがき」は漢字で書いてこそ、その小さい柿の色を思い起させるものである。元日桜と書いて早春にさきがけて咲く梅の種類をすぐ連想することが出来るし、「こうばい」よりも紅梅の方がどれほど一般的であるか、云うまでもないことである。「しゅんらR 花の名の文字の使い方

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