テキスト1964
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名花9姜月g急笠洛,'、ll盆名花とは名高い花、由緒(ゆいしよ)をもっ花、特に美しい花、品種の優れた花、この様なものをさして云われる言葉てある。京都御室の里桜、平安神宮の枝垂桜は有名であり咲く花も美しい。千島さくら、台湾緋さくら、京都の北山さくらは花は賑かでないが品種としては珍らしい。椿の日光(ジッコウ)月光(ゲッコウ)かくれみの、佗すけ、北陸地方の雪つばき、椿の種類は五百種以上もあるが、その中には花も美しく品種も珍らしく、如何にもこれは名桑原専渓花だと思っものがある。白花しやくなげ、薄紫のオランダしやくなげなどはその故郷の土を懐い起す名花と云える。五月から夏かけての花の中にも、ただ見た目に美しいだけでなく、趣味の深い花が多い。おだまき草、はないかだ、狸々ばかま、定家かづらがんび、さんばく草、ざぜん草、みぞはぎ、沢ききようなど山や沢に自然に咲いて、静かな色と姿、詩的なよび名、私達に深い感興を起す花が多い。上臆(じようろう)ほととぎす、ひとりしづか、ふたりしづか、くまがい草、あつもり草の様に古典的な美しい名の花は、古い物語の中にひそかに咲く花の様に思えて、一人深い感懐の中に入る。中国の古い言葉の中に「名花十友」と云うのがある。曾端伯と云う詩人が草木の種類を選んで、友になぞらえたもので、(雅友)まつりか(浄友)はす(殊友)沈丁花(名友)かいどう(艶友)芍薬(清友)うめ盆禅友)<ちなし(佳友)きく盆芳友)らん(奇友)ろうばいなど四季の花のうち美しい花、香りの優れた花、趣味の深い花を選んで名花の名を冠して、詩文に或は絵画に描いた。これは中国でも大分古い話で今ては殆ど通用しないが、花の種類をこんな風雅な選び方をしているのは面白い。私達が花を見るとき、姿、形の美しいもの、色の優れた花を見ると、いけばなに活けて見たいと思つものである。草太の花と葉や実、木ぶりなどが如何にも清らかですっきりしているもの、この様な場合にも心を引かれるもの.てある。草木はその育つ場所に依って、清浄な色と形がつくられ、木振りの風雅な形、面白い枝振りも作られる。美しい花は還境のよい場所でなくては咲かないものである。清やかな空気と清浄な場所にこそ美しい花が咲く。汚れた土地、ごみごみとした所には美しい花は咲くものではない。「泥中の蓮」などと云って、不浄な場所に咲く美しい花の様にたとえられるが、泥は植物の此上もない営養分であり、ひろびろとした池の清浄な空気の中で育つ蓮は、理想的な還境にあるものといえる。ここで名所の花と云う言葉を考えて見る。私がここて名所と云うのは、それが歴史由緒のある土地とか、花の名所(などころ)とかそんな意味ではなくて、いい花の咲く還境、日光、空気、土壌のよい場所、この様な場所に育つ花こそこれが花にとっての名所であろう。またこんな所に咲く花は美しい花色をもち、新鮮な光沢をもっている。これが名所の名花の生れる所以てもある。ひろく花の名所と云われている所を考えて見ると、必すよい花の咲く還境にあって、いわゆる名花の生れる場所でもある。私達がいけばなを作る場合には、美しい還境に育った材料を用いたいものである。材料を手にとって、花や葉をよく見つめると、花葉枝の清浄と汚濁はすぐ感じられるものであるから、出来るだけすっきりとした材料を選びたいものである。特に名花を好むものではな、。しマー←① 毎月1回発行生花ストレチア(極楽鳥花)・バラ桑原専慶流No.15 編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1964年1月獲行いけばな

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