テキスト1963
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街路樹のプラタナスの葉が雨にたたかれて、歩道を黄色く彩っている風景も漸くすぎて、今朝はすっかり枝葉が切りとられて寒々とした冬景色に一入、気候のうつり変りを感じる。豊かな菊の秋が終って12月にカレソダーが変ると、早くも気の早い門松飾りが百貨店の表に作られて新聞のニュースになる。ついこのあいだ笹百合やライラックを活けたかと思つのに早や年末の花を考える季節となった。花とともに明け暮れする生活は、花と共に過ぎ去りまた新しい花の日を迎える。12月に入ると急に花が少くなって菊の姿のなんとなく面やつれて、細々として残りの花のあわれさを感じる。その憮然とした感じの中に、冬の花、春の花のさきがけの姿が、わづかながらに見られる様になる。すいせん、冷雨や霜に紅葉して、冬の菊の風雅さを感じられ、ひっそりと籠の投入寒菊の黄色、赤、白の花が桑原専渓れに活けると落ついていいものである。なんてん、おもと、せんりようの実が色づき、庭には白いさざんかの八重咲、ししがしらの紅の花が座右をなぐさめて呉れる。からみづき、たらえ、もちの実が増し、いいぎりの実の赤も一入需急9ったまばらな枝について、なんとな眼にしみて鮮かである。からみづきの木は桐と同じほどの高い喬木で、実の色は濃い紅の中に深い落着を感じる小さい実の集りが、葉の落ち去く古い染衣の赤を想い起す。すいせんは11月より12月にかけての花で早咲きのものは1月に入ると花も姿も落ちがたになる。寒い地方では1月より2月へかけて咲き、京都地方ではこれを地水仙(ぢずいせん)と云って珍重する。葉ぼたんの中に俗に黒はぼたんと云う品種がある。これは古い品種だが茎が1メーターほどものびて枝にわかれ数多く頭がつく。黒つんだ紫色て茎が曲がりくねって面白い形になるので「おどりはぼたん」とも云われている。この種類は12月下旬なら稀に花屋て見られるが、葉ぼたんの中.ては上品な感じて、菊を添えても洋花と一緒に挿しても雅趣のあるいけばなが作れる。その他の大頭の葉ぼたんはなんとなく俗つぽくて、家庭のいけばな材料としてはも一っ惑心出来ない材料と云えよう。12月も10日を過ぎると花屋も新年花の準備に忙しくなる。この頃のおけいこ花は花屋もお義理の様な状態となって、「いつまで稽古するんですか」と云いかねない空気になって来る。自然、花の値も上って、年末20日すぎになると、すべの材料が平素の3倍程度に騰って来る。なんと云ってもきわもの。野菜もお魚もお料理の材料一切、強気に騰勢づく。いけばな材料もおつきあいよろしく思い切って高くなるのだが、よく考えて見ると花の一ばん少い気節に、しかも一せいに揃って活けることになるのだから、当然、要供給はアンバランスとなり花の相場にひびいて行くのであろう。平素は花も活けないくせにこんな時に活けなくてもよさそうなもの、と恨んで見てもそれも所詮は無理。それなればこちらは少しひかえましようかとも考えるが、やはり新年のことだから部屋に美しい花を飾りたいと思っのは人情。そんな次第で毎年同じ様なことを繰返すこととなる訳です。さて、12月に入ると新年用の若松、梅など日持のよいものが生産地できり出され出荷される。若松は一ヶ月以前に切って荷造りのまま水にもつけず窟屋の倉庫に転がして置くのだから随分、丈夫なものである。京都へ入る若松は三重県ものが上級品で、池賀県と府下丹波地方より入荷するものがやや品質が落ちニ級品と云うこととなっている。若松は陽あたりのよい高原地帯.て栽培するのだが、あの細長い松を育るのには特別な栽培法がある訳てある。菊の類は小豆島、高知地方、名古屋地方から入荷するものが多く、温室の洋花は小豆島の温暖地方、宝塚池田方面の温室から出荷されるものが大部分で洋蘭、ストレチア、バラカーネージョン、チューリップ、その他の観葉植物もこの方面から京都市内へ入って来る。最近、激賀県の野洲地方から入荷するものがあるが、カーネージョン、度で品種は少ない。京都生花市場は12月20日(松の市)22日(梅の市))25日26日(洋花和花大市)と云うことになっている。今年は昨年よりもすべて3割高と云うのが、くろうと筋の見方だが、この秋は菊が比較的よく出来、豊かであったの.て、或は菊の値が低調かも知れない。さて、以上のお話は私達には常識程度の話で直接には関係のない様にも見えるが、値段もお安くよいお花を活けようと考えると、買う方も中々、策戦を要する訳てある。先づ年末の幾日に活けるかと云うこと、これは29日か30日が一ばんいい様てある。何分、多忙の年末のこととて花など考える暇のない御家庭もあって、そう注文どおり行かないと思っのだが、29日30日なれば花も傷まないし第一、花屋にもよい花が豊富にある日である。と考えて間違いない。よい花を活けようとするなれば29日が最もよいと思っ。花屋の材料は25日26日の入荷だからその頃に買つておき、活けるスイトピー程24日(ハボタン市31日は殆ど残りもののは30日位に活けるのもよい方法だと思っ。この場合は柔い温室花や根じめの草花は風のあたらぬ場所へ紙に巻いて保存しておくのがよい。大体の予想ではあるが、盛花瓶花の梼料の場合(京都市内)最低三〇0円程度、七00円程度が中級、一品が買えるのでないかと思われる。ジソビデュームなどを入れた瓶花になると二000円程度になるだろう。以上が大体の見当である。迎春花の材料は、松、梅、ろうばい、せんりよう、なんてん、つばき、すいせん、菊の類、春蘭、蓬莱草、やぶこうじ、たれやなぎなどの和草木が普通に用いられる。また洋花温室草花の類を考えて見ると、カーネージョソ、マーガレット、チューリップ、ポイソセチア、スイトピー、アイリス、テッポウユリ、スカジュリ、洋蘭類、黄スイセソ、フリーヂャ、アマリリス、ストレチア、雪柳、バラ、などの温室咲の美しい花がある。これに添える観葉植物は、アカジャ、ユーカリ、アスパラカス、ゴム、モソステーラ、ミリオクラタスなどがあり、これらの材料を花材のもつ感じと趣味、形と色詞をよく考えて配合することが大切である。テキスト第3号盆昨年12月発行)に解説したので、ここではこの程度に省略する。また、少し考え方を変えて、この際は花代は節約して花器を一っ誓して、新年の気分を味うのも一寸とした考え方.てはないかと思っのだが、如何。0 00円からそれ以上になるる上級元日桜迎春花(lQ)

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