テキスト1963
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先号に述べました造形いけばなについて、今回は具体的に解説したいと思います。いけばなは歴史の流れの中.てその時代や人心を微妙に反映して、いろいろと様式、花型の変化がありました。これはお花が多くの人々に広く愛され親しまれた証拠てすが、また同時に自己を表現しようもない定った花型の繰返しが、いけばなの芸術的な発展向上を阻害したとも言えるのです。花型とか様式、型式という言葉は定った変えようのない典型を言います。典型とは伝統を支え教育の道標となるもので、これを無視しては何再び造形に就て型と形桑原完繭事も成り立ちませんが、その有難いものが創造創作という新しい飛曜の段階.ては邪魔者になるという大変な予盾が起ります。これは芸術の宿命みたいなもの.て、ものを創り出そうという人の苦しみとなります。オー,ソドックスとかアカデミックという言葉は正統て真面目ですが、この中に安住していると創作は不可能になります。さて、「型」という文字はこのように決ってしまったそこここに沢山ある類型の場合に使われます。レデイメイドの型紙とか、歌舞伎十八番の所作の型とか、定って訂正しようもない形を指すようてす。現代はこのような型やワクを破って自分自身の個性を発揮することが、創造の第一条件になっていますから、言葉も敢えて造型といわず造形というようです。もっとも「形」という文字も広い意味で「かたち」全般を表しますから、そこまて厳密にしなくても良いのかもわかりません。美術の方では平面的なものに「型」を使い、立体的なものに「形」を使うようです。戦争は人々の平和を破壊するだけ.てなく、自然に荒磨をもたらし、その上心の中に不信の観念を植えつけます。大きな戦争がある毎に、なにも信じられない気持をもつ人が多くなります。それは政治にも芸術にも変革を与えます。今迄美しいものと思っていた事が信じられなくなり、本当の美は他にある筈だと考えるようになったら、どうすれば良いのでしよう。先ず第一に「これが美しいものだ」という過去の定見をぶっつぶすしか仕方ありません。そのようにして起ったのが「オフジエ」の運動です。例えばある作者は便器をそのまま展覧会に出品して、「泉」という題名をつけました。これを見た人はビックリ仰天です。手術台の上にミジソとコウモリ傘を一緒に置いたらなんとも変な取合せて、異様な感じがします。このように普通そのものがいつも置かれてある所になかったり、用途を無視したトンチソカソな組み合せだと、見た途端はギヨッとしますが、図りずも考えてもみなかった「そのもの」の美しさを発見し、空想が拡がる場合があります。これがオブジエの出発点てす。ではオブジエ的ないけばなとはどオプジェのようなものでしようか。もともとお花はオブジエです。何故なら自然の大地から切取って、挿すという操作て変った意味を持たせるから.てす。しかしこれは習慣や便宣上しているので、過去に反抗しているのでありませんからオブジエの意識とはいえません。昔から花適には種々な取決めがあります。約束事や禁忌があります。それはそれを守ることが美しく間違いなく生きられるからです。だがこのタブーを破っても美が生れるものなら、これがオブジエいけばなと言えるのでしよう。先述しましたように、古典とは古い典型だと申せましよう。変えようのない見事さ、立派さをもつものデ‘す。それだけにこの型が完成する迄には何百年を経たかも知れません。その永年の間に型は益々技術的に洗練されただろうし、時代の波にさらわれなかっただけに、強い美しさを持っています。これは音楽にも文学にも、美術にもある古いもののもつ偉大さです。ところがこれを現在に復冗してみても、そこには現代的な創造はありません。あるのは技術の巧みさが与える感銘だけ.てありましよう。つまり非常に工芸的な美しさがその第一の要素となります。これと正古典の前衛反対のものが前衛作品です。前衛とは軍隊の先頭を進む兵隊のことです。戦いが始まれば一番先に突進して討ち死にする兵士.てす。古典の逆て技術は未完成.て下手でしようが、考え方やその意図は古典的な頭ては考えられない現代調てす。このように真向から対立する相反したものですから、創作的な古典というものはありませんし、キレイな前衛というのも如何にナソセンスかおわかりになる思います。さてこのように造形いけばなが花道の前衛として、戦後はなやかに流行しているのは創造という点で喜ばしい現象かも知れませんが、まだまだ本当の前衛とは断言できないようてす。目新しい材料を使って観賞者を驚かせるのも―つの手段かも知れませんが、やはり最も大切なことは何故そうしなければならないのかという、芸術家の意欲を明確に打出すことでしよう。古典もやり前衛もやるという器用人は工芸家になるべきかも知れません。上掲の作品写真は私の最近作で高さニメートルの大作です。鉄線て構成された立体に「あじさい」の花が無数にはり着けてあります。花は首だけて水に挿してありませんから二日目あたりから段々に色が落ち、四日目で茶褐色に変ります。見るも無惨なこの作品は一体「いけなば」なの.てしようか9なんでしようか9① X X X

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