テキスト1963
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夏の花は永持ちさせることを考えるよりも、毎朝毎朝新しい花をとり替歪て、数時間てもいいから、うるおいのある新しい花を見て楽しむところに、いのちがある訳であります。短かくてこそまた楽し、と云える訳であります。朝顔をかけ花にいけますと大変調和のよいものであります。これはタ刻、陽の落ちる頃に切りとって、足もとの切り口をお台所のお塩.て少しもんで、そのまま花生に活けます。あすの朝に咲く様なつぼみを選んで活けますと、朝になって花器の中で美しい花が格好よく咲いて、感じのいいお花が出ます。6、五郎さんそうですね、今からだと20年ほど前のお話です。喜劇の曾我の家五郎劇団が「千利休」の劇を上演したことがあります。五郎さんの晩年の傑作として、相当評判のよかった喜劇會てしたが、丁度、その頃、私も芝居好きで南座へよく出かけたものてしたが、この「千利休」の舞台で、お花を活ける場面があるので、その型を指導して頂けんかと頼まれたのです。「やるならば皆さん揃って本調子にやって貰えますか」と云う約束て、五郎さんはじめ、五郎八さん、秀蝶さん、その他多ぜいの俳優の人達に、鉄屋町の私の家へ来て頂いて、いけ花の型をおつけしたことがあります。皆さん、大分テレていられた様でしたが、兎に角、やろうじゃないかと云う訳て、二階の広間て、その場面だけを舞台そのままにやって貰いました。利休の娘「お吟「が水盤に桃の花を活ける場面て、座り方がどう、花の持ち方がどうと幾度も繰り返して稽古したのですが、その後、南座の楽屋て、五郎さんにお会いして、大変感謝されたことを覚えて居ります。その際に貰ったのが、陶器の貯金箱,て、鏡に向いながら、五郎さんが筆をとって書いて下さったのが「金會て来い武力て来い貯金王」と云う句です。その頃は戦事中てあったの,て、その匂いのある句をその後時々ながめて、なつかしく思っております。

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