テキスト内容紹介目次
テキスト・バックナンバー
購読案内

桑原専慶流 いけばな テキスト 内容紹介

テキストNO.251
1984年5月号

文 十四世家元 桑原仙溪


コメント・・生花(せいか)の「型」の大切さと、その先にあるもの・・

P7


小豆柳(あずきやなぎ) 
 行型 
 花器、古銅花瓶
P6


山茱萸(さんしゅゆ)
 草型留流し 
 花器、トルコブルーコンポート
「型」について

今月の生花は、五月号には月遅れな花材であるが、私のいけた山茱萸と、和則のいけた小豆柳を対照させながら、生花について色々なことを書いてみよう。

まず最初にことわっておくが、この二瓶の生花は三木会の生花展のために、三月八日にいけたものである。今年は寒さが長引いたので、この原稿を書いている四月二十日迄、約一カ月半、何とか見られる姿をとどめていた。この原稿を書き終ったら片付けてしまおうと思っている。

山茱萸の方は左勝手(逆勝手)の草型の留流し。小豆柳は右勝手(本勝手)で行型、内副が軽く一本加えられている。

この山茱萸は古木とはいえないが、かなりひねた変化のある長さ2メートル程の枝一本から枝取していけたものである。最初に一番よい枝ぶりがどれなのかは、使う位置は考えないで選ぶ。この生花ではそれが留に向いた枝だった。

山茱萸が満開になると一本の木全体が黄色く、ふんわりしたかたまりに見える。そして花の少ない痩せた下枝がつき出ている。丁度留のような形であることが多い。

留から上の方は前述したような山茱萸の姿をうつしたいのだが、少しひねた枝なので、留にえらんだ部分以外は小枝が多く、花も充分ついている。真から副、胴にかけて都合のよい枝が残せた訳である。

真、副、留と太くて、はっきりし形の作れる枝ができれば、後はそえる小枝をつけ加えればよいだけの事となる。残り枝の中から長いものは見越、真囲、胴に使い、短い小枝は総囲、留の沈みに余るほどとれる。太い枝物の生花は枝取りさえ入念にやれば案外いけやすいものであるといえる。

山茱萸は若木の枝をいけることの方が多い花材だが、若い山茱萸はこの作例のように屈曲した形にはいけない。普通より高めに真をとって、のびやかな形にいける。あっさりしたいけ上がりで、しなやかな曲線を生かしたい。

生花、或いは立花にしても、その草木の自然な生育状態を無視することはないが、又型をも度外視はしない。型にはめこむ割合が大きいか、小さいかということだけなのである。

古木は古木の年月を感じさせる風格を。若木はその勢いを。草花のやわらかなみずみずしさ、それらは型の中でも決して死にはしない。



今月の生花二作のうち、山茱萸は古木の風格を自然風に。小豆柳は端正な「行」の型にとじこめてみたが自然の息吹は失われていない。

この小豆柳の生花は、三木会の各出瓶者のいけこみの終った後、和則が夜中の十二時頃から明け方の四時迄かかっていけ上げたものである。

私も生花をやりはじめて間もない頃、ある展覧会に出瓶するため、一晩徹夜で赤芽柳を70本ほどいけたことがある。会場について、半ば仕上げた赤芽柳を前に悪戦苦闘している所へ、隣に先代の西阪専慶氏が、私と同じ赤芽柳をもちこまれて、苦もなくいけ上げられたのを思い出す。先代西阪氏は、私の奮闘ぶりに好感をもたれたせいか、柳の扱い方について色々と助言して下さった。その頃京都の花道会の古老の皆さんは、私が花をいけていると、よく私の後に来られて、何かと話しかけて頂いたが、その時得た知識は今でも随分私の助けになっている。いい想い出である。

和則には現在まで、ずっと「行」の型ばかりいけさせ、型が完全に身につくように指導している。私は小学校の頃から中学校の間剣道をやっていたが、剣道では「型」の訓練が稽古の主になっていたような気がする。多くの「型」が身につくと、自由稽古で打ち合っていても、どんな場面でも反射的に身をかわしたり、打ちこんだりできるようになる。打ちこむ方も、かわす方も人間の動きには一定のパターンがあることを剣道は長い歴史の中で見出したのだろう。型を知らない相手だと、それがどんなに運動神経が発達した力の強い人でも、こちらは型通りの動きで簡単に打ちすえることができる、ところが高段者同志になると型通りでは勝てなくなってくる。生花で古木や、繊細な草花をいける時と似通っているように思える。それは相手と向きあった時、直感でその動きを感じとり、それに合った身の動きがとれるかどうかということであろう。違いは、いけ花には勝負がなく、花と一体になるところで終る点である。

真面目で素直な和則は、現在「型」にはまってもらうよう稽古を重ねているが、「型」がはずせる日を楽しみにしている。

1984年 5月号より
テキスト内容紹介目次
テキスト・バックナンバー
購読案内
>>>> Home


このサイトに掲載されている全てのコンテンツ(記事、画像等)は、桑原専慶流家元の承諾なしに無断転載することはできません。
copyright 2002 KUWAHARA SENKEI SCHOOL all rights reserved.
http://www.kuwaharasenkei.com